炎症性腸疾患の原因の1つと考えられる腸管粘膜バリアの破綻
日本医療研究開発機構(AMED)は3月31日、腸管上皮細胞に発現するLypd8という蛋白質が鞭毛を持つ腸内細菌(有鞭毛細菌)の侵入を抑制し、腸管炎症を抑えるメカニズムを突き止めたと発表した。この研究は、大阪大学大学院医学系研究科感染症・免疫学講座(免疫制御学)/免疫学フロンティア研究センターの奥村龍特任研究員、竹田潔教授らのグループによるもの。同研究成果は、英科学誌「Nature」オンライン版に3月30日付けで掲載されている。
画像はリリースより
潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の原因の1つとして、腸管上皮によって主に形成される腸管粘膜バリアの破綻が考えられている。おびただしい数の腸内細菌が存在する大腸においては、粘膜バリアの1つである粘液層が厚く表面を覆っており、腸内細菌が容易に大腸組織に侵入できないことがわかっている。しかし、どのように細菌の侵入を抑えているかはわかっていなかった。
潰瘍性大腸炎の新たな治療薬開発に期待
研究グループは、大腸上皮細胞に特異的に高く発現する「Lypd8」に着目。Lypd8は、高度に糖鎖修飾されるGPIアンカー型蛋白質で大腸管腔内に恒常的に分泌されていることがわかった。また、ヒトにおいてもマウスと同様に大腸上皮に発現しているが、潰瘍性大腸炎の患者では発現の著しい低下が観察されたという。
そこで、Lypd8を欠損するマウスを作製すると、このマウスの大腸では、正常であれば無菌に保たれている内粘液層に腸内細菌が侵入しており、特に大腸菌やプロテウス属菌などの有鞭毛細菌が侵入していた。有鞭毛細菌の多くが悪玉菌として知られ、腸管炎症との関連を指摘されていることから、次にLypd8欠損マウスに腸炎を引き起こし、野生型マウスと比較すると、有意に腸炎が重症化したという。
Lypd8分子の機能をさらに解析するため、有鞭毛細菌の1つであるプロテウス菌を使って、Lypd8分子の細菌への作用を解析。電子顕微鏡を用いた観察で、Lypd8はプロテウス菌の鞭毛に結合することがわかり、さらに寒天培地を用いた実験にて、Lypd8はプロテウス菌の運動性を抑制することがわかったという。
潰瘍性大腸炎は、現在根治的治療がなく、発病原因のさらなる解明と新規治療開発が急務とされている。今後、Lypd8蛋白の補充療法などの粘膜バリア増強による潰瘍性大腸炎への新たな治療法の開発に期待が寄せられる。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース