DNA修復、転写や複製などに関与するADP-リボシル化酵素「PARP-1」
京都大学は3月24日、DNA損傷応答に関与するTIP60ヒストンアセチル化酵素によるクロマチン構成蛋白質の1つであるヒストンH2AXのアセチル化が、PARP-1のADP-リボシル化活性を高めると発表した。この研究は、同大放射線生物研究センターの井倉毅准教授、古谷寛治講師、井倉正枝 博士研究員、生命科学研究科の垣塚彰教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Molecular and Cellular Biology」36巻、10号に掲載予定。
DNA修復は、内因性あるいは外因性のストレスによって生じるDNAの傷を治し、ゲノムの安定性維持にはなくてはならない生体防御システムの1つ。このDNA修復機構の破綻は、がんや神経変性疾患などの疾病を招くことがある。しかしDNA修復は、正常細胞だけのものではなく、がん細胞の生育においても重要であり、近年では、がん細胞の修復機構を阻害してがんを死滅させるというコンセプトでの抗がん剤が開発されている。
ADP-リボシル化酵素PARP-1は、DNA修復酵素の1つだが、細胞内での働きは、DNA修復のみならず、転写や複製など細胞核内のDNA代謝全般に関与している蛋白質。PARP-1 のADP-リボシル化活性の阻害剤(商品名:Olaparib)は、卵巣がんや神経膠細胞腫などに対してがん抑制効果を認め、その作用機序は、がんのDNA修復機能を抑制することによると考えられている。しかし、転写、複製にも関与するPARP-1の阻害剤が、がんの修復反応をターゲットとしているはっきりとした根拠は、はっきりとは提示されていなかった。
「クロマチン創薬」の可能性を提示
今回、研究グループは、DNA損傷応答に関与するTIP60ヒストンアセチル化酵素によるクロマチン構成蛋白質の1つであるヒストンH2AXのアセチル化が、PARP-1のADP-リボシル化活性を高めることを見出した。さらに、抗がん剤であるPARP-1インヒビター、Olaparibが、ヒストンH2AXを介したDNA損傷応答シグナルを抑制することを見出したという。
これらの知見は、クロマチンを介したDNA修復反応の促進に、TIP60とPARP-1との相互制御(ポジティブフィードバック制御)が重要な働きをしていることを示唆していると共に、OlaparibのターゲットがDNA 修復反応、特にその反応を司るクロマチンであることを明確に提示したことになる。
今回の成果は、DNA修復において、クロマチンのダイナミックな動きが重要な働きをする ことを示しているだけではなく、Olaparibと同様の効果を持つ抗がん剤の探索、すなわち「クロマチン創薬」が今後重要とになることも示している。また、Olaparibの効果が見られないがん細胞も存在するが、今回の知見をもとに、今後はこれらのがん細胞のクロマチン状態を効きやすい状態に変える薬の開発も期待できるとしている。
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・京都大学 プレスリリース