脳内のSIRT1とうつ病との関連を解析
日本医療研究開発機構(AMED)は3月24日、長寿遺伝子産物として知られる酵素「サーチュイン」(SIRT1)を脳で活性化させることにより、ストレスを長期間受けてもうつ病になりにくくなる可能性があることを発表した。この研究は、山口大学大学院医学系研究科の渡邉義文教授、内田周作講師、山形弘隆講師、樋口尚子助教らの研究グループによるもの。同研究成果は、米科学誌「Biological Psychiatry」電子版に3月23日付けで掲載されている。
画像はリリースより
人では、うつ病とSIRT1遺伝子には強い相関があることが以前から指摘されていた。しかし、脳におけるSIRT1の機能異常とストレス誘発性のうつ病との因果関係は不明であった。この関係を直接的に証明するために、同研究グループはストレスに強いマウスと弱いマウスを用いて、脳内SIRT1と不安・うつ様行動との関連を詳細に調査。長期的なストレスに適応することができずに、人間のうつ状態を反映する行動をしたマウスと、ストレスに適応することができたマウスを用いて、これら2種類のマウスの脳内でどのような違いがあるのかを調べたという。
うつ病や不安障害の病態究明や新たな治療薬の開発に期待
その結果、ストレスに弱いマウスでは、脳内の海馬でSIRT1の量が減っていた。一方、ストレスに強いマウスではSIRT1の量は変化していなかったという。そこで、遺伝子操作やSIRT1の機能を高める薬剤を用いてストレスに弱いマウスの海馬でSIRT1を活性化させたところ、ストレスに強いマウスになった。逆に、SIRT1の働きを弱めたところ、軽度なストレスに対して適応することができないマウスになったという。
今回の研究結果から、ストレスに強い脳と弱い脳の分子機構の一端が明らかとなった。また、SIRT1の機能を高める薬剤を投与したマウスは、ストレスを受けてもうつ状態にならなかったという結果は、ストレスが引き金となって発症する精神疾患の新規治療薬の標的となり得る可能性を示唆している。
しかし、ストレスは脳内のさまざまな場所の機能に影響を与えていると想定されているため、今回解析した脳の部位以外でも多くの異常が生じている可能性は十分に考えられる。また、うつ病や不安障害は単一の遺伝子のみで説明できる疾患ではなく、複数の因子が複雑に相互作用していると考えられている。今後は神経回路レベルでの解析やヒト試料を用いた多角的なアプローチにより、ストレスを受けた脳の全容解明ならびにうつ病の予防・診断・治療法の確立に向けた取り組みを推進していく必要がある、と研究グループは述べている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース