みずほ証券エクイティ調査部でアナリストを務める野村広之進氏は、海外の大手製薬会社を対象に調査した結果、「水面下を含めれば投資をしていない大手製薬会社は存在しない」と言及。「5~7年前にはこの領域にはなかなか手は出なかったが、世界的に期待が高まり、2014年頃から大手製薬会社の参入が加速している」と解説した。
再生・細胞領域の世界市場は14年で約800億円規模。現在、がん免疫、皮膚、骨、軟骨領域などで27製品が世界で上市されている。今後は腫瘍、中枢神経、脳梗塞、血管障害領域などでの開発が期待されており、20年頃には世界で2兆円前後の市場になると予測されているという。
大日本住友製薬執行役員再生・細胞医薬事業推進室長の木村徹氏は、中枢神経系の再生・細胞医療領域の研究開発に加え、細胞生産体制の確立に取り組んできた経緯を説明。「ジェネリック医薬品の影響で既存のビジネスモデルは難しくなっている。細胞の生産は規制をクリアすることが難しいだけに、いったんビジネスとして動き出すと比較的長く継続できる可能性がある」とメリットを語った。
富士フイルム再生医療事業推進室の伴寿一氏は、フィルム事業の縮小に伴ってヘルスケア事業に進出し、国内外の再生・細胞領域関連企業を買収した経緯を解説。「なぜ再生医療かというと医薬品では世界でナンバーワンになれないから。再生医療はまだ未開で事業として誰が勝つのか分からない。ナンバーワンを目指すことで腹をくくって意思決定できる」と強調した。同社は米国で17年以降、加齢黄斑変性、網膜色素変性、パーキンソン病、心疾患を対象にiPS細胞を用いた細胞治療の治験を開始する計画だ。
一方、JCRファーマ開発顧問の毛利善一氏は、造血幹細胞移植後の合併症である急性移植片対宿主病の治療製品として、今年2月に発売した日本初の他家由来再生医療等製品「テムセルHS注」について「これだけ薬価が高くても採算がとれないのが課題」と吐露した。
標準使用16バッグ分の薬価は約1390万円。骨髄液を海外から輸入したり、細胞の洗浄や培養、製剤などに高額な海外製品を使用したり、細胞の輸送には厳格な温度管理や特殊な装置を必要としたりするなど、製造や輸送にコストがかかると言及。「単独では解決は困難」とし、製薬会社や周辺企業が参画する再生医療イノベーションフォーラムなどを通じて「企業連合で課題解決に取り組みたい」と語った。