ヒストンメチル化酵素EZH1/2の二重阻害剤「DS-3201b」を共同開発
国立がん研究センターは3月22日、東京大学と第一三共株式会社と共同で、血液がんに対する新規分子標的薬としてヒストンメチル化酵素EZH1とEZH2の二重阻害剤「DS-3201b」を共同開発し、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)を含む悪性リンパ腫患者に対して世界で初めて投与するファースト・イン・ヒューマン試験として、第1相試験を開始したと発表した。
悪性リンパ腫は血液がんのひとつで、抗がん剤により十分な治療効果が得られないことがあり、しばしば再発も見られる。なかでもATLは、日本に多い悪性リンパ腫の一型で、原因となるヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)キャリアの数は、日本では約120万人、世界では1000~2000万人と推定。キャリアの約5%がATLを発症すると言われている。現在、ATLの発症予防法や有効な治療法は確立しておらず、薬剤耐性の頻度が高い予後不良な疾患とされる。
EZH1/2の阻害でがん幹細胞を根絶
悪性リンパ腫の予後が悪い一因には、がん細胞を再生する能力をもつ「がん幹細胞」が治療後も残存するためと考えられている。そのためがん幹細胞を根絶することが血液がんの根治には重要であるといえる。これまでに、同センター造血器腫瘍研究分野の北林一生研究分野長らの研究グループが、がん幹細胞の維持に必須な酵素としてEZH1/2を発見。2つの酵素を共に阻害することで、がん幹細胞を根絶、治療抵抗性を打破し、再発を抑制することを示唆する研究成果を得ており、実験動物等を用いた非臨床試験で急性骨髄性白血病や非ホジキンリンパ腫に有効であることが示唆されている。
また、東京大学大学院新領域創成科学研究科の渡邉俊樹教授、山岸誠特任助教を中心とする研究グループが、ATLの発症及び進展にEZH1/2に依存的なエピゲノム異常があることを発見。さらに、正常細胞に比べ、ATL細胞はEZH1/2によるエピゲノム変化に強く依存した細胞であるため、EZH1/2二重阻害は非常に高感度かつ特異的にATL細胞の生存能を低下させることが判明している。ATLの原因となるHTLV-1キャリアの血液細胞にこの阻害剤を処理することにより、感染細胞が選択的に除去されることを見出したという。
今回の第1相試験は、国立がん研究センター中央病院で実施され、他施設での実施準備も進められている。
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・国立がん研究センター プレスリリース