発生機構がほとんどわかっていなかった「しびれ」
京都大学は3月18日、感覚神経にある痛みセンサ分子「TRPA1」が低酸素により過敏化し、しびれによる痛みを引き起こすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学研究科の宗可奈子博士課程学生、医学部附属病院の中川貴之准教授、薬学研究科の金子周司教授ら共同研究グループによるもの。研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」誌(電子版)に3月17日付けで掲載されている。
画像はリリースより
しびれは、正座の後など誰しもが経験したことのある感覚だが、ひどいときには箸などの細かいものが持てなくなったり、転んでケガをしたりする危険性が高まることもある。また、しびれは糖尿病、末梢神経障害、末梢閉塞性動脈疾患などの病気のほか、ある種の抗がん剤による治療でも起こる。しかし、こうしたしびれに効く薬は開発されておらず、しびれに悩まされている患者は多い。
薬の開発が進まない原因は、しびれを評価できる動物モデルがなく、その発生機構がほとんどわかっていないことにあった。そこで研究グループは、まず、正座後のしびれに似せた動物モデルを開発し、しびれ発生機構を分子レベルから解析したという。
TRPA1阻害薬がしびれ症状を改善するか調査へ
今回の研究では、マウスの片側の後ろ足をタコ糸で縛ることで血流を止め、15~60分後にそのタコ糸を切ることで、後ろ足の血流を再開させて、しびれを模した。このようなマウスでは、後ろ足の感覚がやがてなくなり、血流を再開させた直後には足の裏を激しく舐める行動が見られた。 このマウスの行動は、長時間の正座後に足の感覚がなくなってしまうと同時に、足にビリビリとした強い痛みが走る感覚によく似た現象と考えられるという。
血流が一定時間止まった後に血流が再開すると、体にダメージを与えたり、痛みを引き起こしたりする活性酸素が大量に発生することが知られている。研究グループは、感覚神経でこの活性酸素の存在を検知するセンサとして機能している transient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)に着目。その結果、血流再開後に生じる足を舐めるような強いしびれは、活性酸素を捉えて消失させてしまう薬や、TRPA1阻害薬、またはTRPA1の遺伝子をなくすことにより弱まった。つまり、血流再開後に発生した活性酸素が感覚神経のTRPA1 を刺激することにより、痛みにも近い強いしびれ感が発生したものと考えられるという。
さらに、その分子メカニズムを明らかにするため、TRPA1を発現させた培養細胞やマウスから採取した感覚神経の細胞を用いた実験を実施。これらの細胞を30分間、低酸素中に置いておき、その後、酸素濃度を元に戻すと同時に活性酸素である過酸化水素(H2O2)を処置すると、過酸化水素によるTRPA1の反応が非常に強くなることを見出した。この分子メカニズムとして、酸素がないと働けない酵素「プロリン水酸化酵素」が、酸素濃度が低いために働かなくなり、その結果、TRPA1の構造中にあるたった1つのアミノ酸残基が変化(プロリン残基の脱水酸化)することで、TRPA1の活性が異常に高まることを発見したという。
同研究グループは今後、TRPA1阻害薬が実際にしびれの症状を改善するかを調査するという。また、人間でしびれを起こす糖尿病、閉塞性動脈疾患、抗がん剤などの病態動物モデルを作ることで、さらに有効性の高い治療薬を見出せる評価系を確立していく予定としている。
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・京都大学 プレスリリース