糖尿病などの発症に関与する内臓脂肪の慢性的な炎症反応
富山大学は3月15日、漢方薬に含まれる生薬・甘草(かんぞう)成分「イソリクイリチゲニン」(ILG)の新たな薬理作用を見いだしたと発表した。この成果は、同大大学院医学薬学研究部(医学)免疫バイオ・創薬探索研究講座(富山県寄附講座)の渡邉康春客員助教、長井良憲客員准教授、高津聖志客員教授ら研究グループによるもの。英科学誌「Scientific Reports」オンライン版に同日付けで掲載されている。
画像はリリースより
近年問題となっているメタボリックシンドロームや糖尿病の発症には、内臓脂肪における慢性的な炎症反応が深く関与することが知られている。肥満になると、炎症細胞であるマクロファージなどが内臓脂肪に集まり、脂肪細胞と相互作用することによって慢性的な炎症反応が生じるものと考えられていた。また、マクロファージには内臓脂肪の線維化を引きおこし、脂肪細胞の機能を妨げる働きがあることも明らかとなっている。
研究グループはこれまでに、生薬に含まれる甘草のILGという成分が、マクロファージにおいて、炎症の鍵分子NLRP3インフラマソームの活性化を阻害し、マウスのメタボリックシンドロームを改善させることを報告してきていた。しかしながら、ILGの脂肪細胞への薬理作用や線維化に対する有用性は不明だった。
内臓脂肪のマクロファージに働き、抗線維化作用示す
研究グループは以前、試験管内で脂肪細胞とマクロファージを共に培養する実験系を確立。この培養によって炎症反応が引きおこされることを報告していた。また、チアゾリジン系の糖尿病治療薬ピオグリタゾンが脂肪細胞に作用し、共培養による炎症反応を抑制することも報告していた。これらの結果から、同培養実験法が内臓脂肪の炎症反応を抑制する天然物のスクリーニングに有用であると考えたという。
そこで同培養実験法において、ILGの効果を検討したところ、ILGはマクロファージから産生される炎症性サイトカイン「TNF-α」や脂肪細胞から産生されるケモカイン「MCP-1」の発現を抑制。ILGはTNF-αによる脂肪細胞の活性化を抑制すると共に、飽和脂肪酸によるマクロファージの活性化も抑制することが明らかになったとしている。
次に、内臓脂肪の線維化に対するILGの効果を調べるため、マウスに高脂肪食とIを与えて線維化を検討。高脂肪食を与えたマウスでは、普通食を与えたマウスに比べて内臓脂肪の線維化が多く見られたという。その一方でILGを混ぜた高脂肪食を与えたマウスでは、高脂肪食による線維化が顕著に抑制した。さらに検討したところ、ILGはマクロファージに作用し、自然免疫センサーであるMincleやTLR4による線維化関連遺伝子の発現を抑制することが判明。これにより、ILGは内臓脂肪のマクロファージに作用し、線維化を抑制することが想定されるとしている。
今回の研究で、共培養の実験系でILGは脂肪細胞に働いて抗炎症作用を示すこと、マウスを用いた実験系で内臓脂肪のマクロファージに働いて抗線維化作用を示すことが初めて明らかになった。今後、ILGの抗炎症作用や抗線維化作用の詳しいメカニズムを調べることにより、ILGを基にしたメタボリックシンドローム治療薬の開発につながることが期待されるとしている。
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