胃がんの約10%の症例で、ピロリ菌とEBウイルスの共感染
東京大学は3月15日、発がん細菌と発がんウイルスが連携して胃がんの発症を進める機構を世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の畠山昌則教授、紙谷尚子講師、千葉大学大学院医学系研究科の金田篤志教授、東京大学大学院医学系研究科の深山正久教授、瀬戸泰之教授らの共同研究として行われたもの。研究成果は、英科学誌「Nature Microbiology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
cagA 遺伝子を保有するヘリコバクター・ピロリ(cagA 陽性ピロリ菌)の胃粘膜慢性感染は、胃がん発症の最大のリスク因子となる。一方、約10%の胃がん症例では、cagA 陽性ピロリ菌感染に加えて、エプスタイン・バールウイルス(EBウイルス)が胃がん細胞に感染していることが知られている。しかし、ピロリ菌とEBウイルスの共感染が胃がんの発症に及ぼす役割は、これまで全く研究されていなかった。
CagA の発がん生物活性を抑制する酵素としてSHP1を同定
ピロリ菌cagA 遺伝子から作り出されるCagAタンパク質は、胃上皮細胞に侵入後、チロシンリン酸化という修飾を受けることで発がん活性を発揮する。今回の研究では、ピロリ菌タンパク質CagAを脱リン酸化する酵素(ホスファターゼ)として、タンパク質チロシンホスファターゼ「SHP1」を同定したという。
SHP1によるチロシン脱リン酸化の結果、CagAタンパク質の発がん活性は中和されたことから、SHP1は胃がんの発症を抑制する分子と考えられる。これに対し、EBウイルスが感染した胃の細胞内ではSHP1の発現が抑制され、その結果、ピロリ菌CagAタンパク質の発がん活性は、より増強することが明らかになったという。
この研究成果は、細菌とウイルスが連携してヒトのがん発症を促す仕組みを世界で初めて明らかにしたもので、その意義は大きい、と研究グループは述べている。
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・東京大学大学院 医学系研究科・医学部 プレスリリース