可溶性エポキシド加水分解酵素のタンパク発現が増加
千葉大学は3月10日、同大社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授(神経科学)、日本学術振興会特別研究員の任乾博士らの研究グループが、うつ病の病因に脂質代謝に関わる可溶性エポキシド加水分解酵素の異常が関与していることを明らかにしたと発表した。
日本国内では、100人に3~7人の割合でうつ病を経験した人がいるという調査報告がある。世界保健機構(WHO)の報告では、世界中で3.5億人が罹患しており、年間80万人が自殺しているという。うつ病の薬物療法として抗うつ薬などが使用されているが、既存の抗うつ薬が効かない治療抵抗性の患者群も存在している。ストレスなどの要因が発症に関わっているとされているが、詳細なメカニズムは明らかになっていない。
今回研究グループは、うつ病のモデル動物(炎症、社会的敗北ストレス)およびうつ病患者の死後脳を用いた研究から、可溶性エポキシド加水分解酵素のタンパク発現がうつ病様症状を呈するマウス脳組織やうつ病患者の死後脳組織で増加していることを発見したという。
可溶性エポキシド加水分解酵素阻害薬の投与で即効性の抗うつ効果を確認
また、可溶性エポキシド加水分解酵素阻害薬を投与することで、うつ様症状を呈するマウスで即効性の抗うつ効果を確認。この阻害薬の投与、あるいはこの酵素を遺伝子欠損させると、社会的敗北ストレスによって引き起こされるうつ症状が起きない事もわかったという。
可溶性エポキシド加水分解酵素は、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸の代謝で生じるエポキシエイコサトリエン酸を代謝してジオール類に分解する酵素。アラキドン酸代謝系の脂質代謝に関わっており、近年では炎症に関わっている事が明らかとなっている。
今回の研究成果により、うつ病の病因に可溶性エポキシド加水分解酵素が重要な役割を果たしている事が明らかとなり、今後はうつ病の新しい治療薬や再発予防としての可能性に期待が寄せられる。
なお、同研究成果は米国科学アカデミー紀要オンライン版に3月14日付けで掲載されている。
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・千葉大学 プレスリリース