光学顕微鏡や超解像顕微鏡でも観察が困難だった微細なシナプス構造
理化学研究所は3月11日、生体組織深部の超解像イメージングを可能とする新しい組織透明化試薬「SeeDB2」(シーディービーツー)を開発し、同試薬と超解像顕微鏡を用いて、マウスやショウジョウバエの脳の蛍光イメージングを行い、シナプスの微細な3次元構造を大規模に解析できることを示したと発表した。
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この研究は、理研多細胞システム形成研究センター感覚神経回路形成研究チームの今井猛チームリーダー、柯孟岑(カ・モウシン)国際特別研究員、金沢大学新学術創成研究機構の佐藤純教授らの共同研究グループによるもの。同成果は、米科学雑誌「Cell Reports」3月22日号に掲載されるのに先立ち、3月10日付けでオンライン先行掲載されている。
シナプスで構成される神経回路の構造は、1マイクロメートル(1,000分の1mm)以下と小さく、従来の光学顕微鏡でその詳細を観察することは難しく、近年、光の回折限界を超える分解能を持つ超解像顕微鏡が開発されているが、厚みのある生体試料深部を観察することは困難だった。
精神疾患の病態や発症機構の解明に期待
そこで2013年に感覚神経回路形成研究チームは、ハチミツや果物などに多く含まれるフルクトースを用いて生体組織の微細構造を保ったまま透明化する試薬「SeeDB」を開発。今回、共同研究グループはX線造影剤の成分として知られる「イオヘキソール」を用いることでこの方法を改良し、高解像イメージングのための透明化試薬「SeeDB2」を開発した。
SeeDB2は屈折率が高く、顕微鏡観察に用いるカバーガラスおよび対物レンズ浸液として用いるオイルの屈折率と完全に一致するため、深部でも画像がぼけることなく鮮明に観察できるという。実際にSeeDB2で処理したマウス脳、ショウジョウバエ脳、卵母細胞、培養細胞など、さまざまな試料を共焦点顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて観察したところ、100μmを超える深部まで高解像画像が得られた。また、従来観察することが難しかったシナプスの微細構造を大規模かつ3次元的に捉え、定量解析することに成功したという。
SeeDB2と超解像顕微鏡を組み合わせることで、シナプスの3次元構造のような立体的で微細な構造を極めて簡便かつ大規模に解析できる。この方法を用いることでヒトの脳機能の基盤や発達過程を明らかにする研究がより加速すると期待できるという。
また、精神疾患の多くはシナプスの形成異常によって生じることが判明してきており、SeeDB2と超解像顕微鏡を組み合わせた研究は、精神疾患の病態や発症機構の解明においても効果を発揮するものと、同研究グループは述べている。
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