拒絶反応、ドナー不足の問題を抱える他家角膜移植術
日本医療研究開発機構(AMED)は3月10日、大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)の西田幸二教授、林竜平寄附講座准教授らの研究グループが、ヒトiPS細胞に対して、細胞自律的な分化を促し、眼全体の発生を再現させる2次元培養系を開発したと発表した。この研究成果は「Nature」オンライン版に3月9日付けで掲載されている。
画像はリリースより
外傷や病気により角膜上皮の幹細胞が失われると、周辺の結膜組織が血管を伴い角膜へ侵入するため、角膜透明性が失われ、失明に至る。このような重篤な角膜上皮疾患に対しては、同種(他人由来)ドナー角膜(アイバンク眼)を用いた他家角膜移植術が行われてきたが、拒絶反応のため治療成績は限定的であり、ドナー不足の問題も抱えている。
研究グループはこれまでに、口腔粘膜の上皮細胞を代替細胞として移植する再生治療法(自家培養口腔粘膜上皮細胞シート移植:COMET)を開発し、臨床応用を行ってきた。COMETは従来の角膜移植術と比較すると良い成績は得られていたものの、長期間考察により角膜と口腔粘膜の性質差に起因すると考えられる事象が生じるために、COMETの効果は限定的であることが明らかとなっていた。
難治性角膜疾患に対する新たな再生医療の開発に期待
今回開発された培養系は、角膜や水晶体など眼の前の部分と網膜や網膜色素上皮など後ろの部分の両方を同時に誘導できる技術。これまでは、網膜や網膜色素上皮など眼の後ろの部分のみを誘導する技術は報告されていたが、眼の全体部分を発生再現できたのは世界で初めての成果になるという。
また同研究において開発した培養系では、ヒトiPS細胞から同心円状の4つの帯状構造からなる2次元組織体(self-formed ectodermal autonomous multi-zone:SEAM)の誘導が可能になった。SEAMには、角膜上皮、網膜、水晶体上皮など発生期の眼を構成する主要な細胞群が特定の部位に出現する。このSEAMの3番目の帯状構造の中から角膜上皮前駆細胞を単離し、機能的な角膜上皮組織を作製することに成功。さらに、動物モデルへの移植により、ヒトiPS細胞由来角膜上皮組織の治療効果を立証できたという。
今回の研究成果は、iPS細胞を用いた角膜上皮再生治療法のヒトでの応用に貢献すると同研究グループは述べており、角膜のみならず、眼の様々な部位の再生医療の開発につながることが期待されている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース