大脳皮質内の第2~3層、4層の神経細胞が生み出されるメカニズム
慶応義塾大学は3月8日、大脳皮質の神経細胞が特定のタイプの神経細胞のみに分化するメカニズムを明らかにする研究結果を発表した。この研究は、同大学医学部解剖学教室の大石康二講師、仲嶋一範教授らの研究チームによるもの。研究成果は、米総合学術雑誌「米国科学アカデミー紀要」オンライン版に、3月7日付けで掲載されている。
画像はリリースより
大脳は、脳の中でも特に記憶や学習、感情等の高度な働きをしている部分。大脳の表面にある大脳皮質では、神経細胞が脳の表面に平行な6層に分かれて並んで配置されており、脳表面に近い方から、第1~第6層と呼ばれている。
これまでの研究で、大脳皮質外へ出力する第5~6層の神経細胞については研究が進んでいたものの、神経情報の入力を外部から受容する第4層、大脳皮質内での情報処理を主に担当する第2~3層の神経細胞が生み出されるメカニズムついては未解明だったという。
大脳皮質の層に発言するタンパク質分子に着目、選択・分化の過程を観察
今回研究グループは、成熟した大脳皮質の第2~3層と第4層に、それぞれ特異的に発現するタンパク質分子に着目。成熟した大脳皮質では、転写因子「Brn2」が第2~3層に、また転写因子「Rorb」が第4層に特異的に発現することが知られていたが、発生途中の未成熟な大脳皮質でこれらの転写因子の発現を調べたところ、第2~4層の神経細胞になる細胞群は、共通して全てBrn2を発現し、Rorbを発現しなかった。この結果から、第2~3層と第4層の神経細胞は、発生途中の未成熟な段階では似通った特徴をもつことが示唆されたという。
次に、これらの神経細胞の成熟過程について調べたところ、第2~3層では成熟後にも継続してBrn2が強く発現。一方、成熟後の第4層ではBrn2の発現が減少し、代わりにRorbの発現が上昇してくることが明らかになった。この発現の状態から、第4層ではRorbがBrn2の発現を阻害する可能性、第2~3層ではBrn2がRorbの発現を阻害する可能性が示唆されたとしている。今回の研究では、この可能性について、子宮内胎児脳電気穿孔法を用いた遺伝子の過剰発現実験および抑制実験を行い、そのどちらも正しいということを明らかにしたという。
このBrn2とRorbの間の相互の阻害作用は、これらの分子の発現量の少しの違いを増大させ、どちらか一方のみの発現を選択するのに役立ち、Brn2とRorbという転写因子の発現だけでなく、神経細胞の性質自体にも影響を及ぼすことが考えられる。つまりBrn2が強く発現した細胞は、第2~3層の神経細胞に特徴的な連絡様式、形態、特異的に発現しているタンパク質分子の種類などの性質を示すようになり、逆にRorbを強く発現する細胞は、第4層神経細胞に特徴的な性質を示すようになるということだ。その結果として、1つの細胞が第2~3層と第4層の両方の特徴を持った神経細胞として分化することなく、どちらか一方のみのタイプが選択されて分化するという新しいメカニズムが明らかになったとしている。
第 2~3層と第4層は、進化的に新しく大脳皮質に加わった神経細胞の集団であることがわかっているため、さらに分子メカニズムの解明を進めることで、進化の過程で大脳皮質がどのように発達したのかを知る手がかりとなることが期待される。また、今回の研究結果は、特定の役割をもつ神経細胞を試験管内で作り出し、治療に応用できる可能性があると研究グループは述べている。
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