特定の栄養素や薬剤を用いて疾病を予防する「化学予防」の研究
横浜市立大学 先端医学研究センターは3月3日、糖尿病や多嚢胞性卵巣症候群などの治療で用いられる薬剤メトホルミンを内服すると、大腸ポリープ切除除去後の新規ポリープ発生が抑制されるという研究成果を発表した。これは、同大肝胆膵消化器病学の中島淳教授、日暮琢磨助教らの研究グループが、横浜市立大学附属病院、その他関連病院との共同研究によって得られた成果。英科学専門誌「Lancet Oncology」オンライン版に3月2日付けで掲載されている。
画像はリリースより
特定の栄養素や薬剤を用いて疾病を予防するという概念は「化学予防」と呼ばれ、既に心筋梗塞や脳梗塞の予防としてアスピリンなどの抗血小板薬などが臨床応用されている。しかし、大腸がんについては、アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬などの鎮痛薬に大腸腫瘍の予防効果は認めるものの、副作用があり、予防法として確立していなかった。
近年、糖尿病の治療薬のひとつであるメトホルミンについて、服用者は非服用者と比較してがんの発生が低いという報告が複数あり、特に大腸がんに関しては、予防効果を示唆する報告が多数出ている。中島教授らのグループは、以前よりこのメトホルミンに注目して、大腸発がんモデルマウスに投与すると大腸腫瘍が抑制されること、ヒトの直腸に存在する前がん病変のマーカーが減ることを報告しており、海外からも高い評価を受けていた。
大腸ポリープ切除後のがん発症予防の可能性
これらの知見をもとに、大腸ポリープを内視鏡切除し、ポリープが無い状態になった患者に、メトホルミン250mgもしくはプラセボを無作為に割り付け、合計151名の患者を対象に試験を実施。1年後の内視鏡検査において、大腸前がん病変である腺腫の新規発生/再発率はメトホルミン群では32%であったのに対して、プラセボ群では52%であり、メトホルミン服用によりポリープの再発が40%も低下するという結果を得た。また、試験期間中にメトホルミン服用で重篤な副作用を認めた患者はいなかったという。
大腸腺腫/がんを切除した患者はその後にも腺腫やがんが発生する可能性が高いことが報告されており、そのような患者を対象に予防薬の内服をすることにより、内視鏡の負担や将来の疾病リスクを減らすことができる可能性がある。
今回の研究期間は1年間であり、試験中にメトホルミンを服用した患者もプラセボを服用した患者どちらにも大腸がんの発生はなかったという。大腸がんの発生まで本当に抑制するかは、さらなる経過観察と検討が必要だ。同研究グループは現在、長期間の試験を計画しており、今後の追加の結果報告が期待される。
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・横浜市立大学 先端医学研究センター 研究成果