眼の動きの前後の網膜像を統合、滑らかな視界を維持する脳の仕組み
北海道大学は2月25日、同大大学院医学研究科の稲場直子助教、京都大学大学院医学研究科の河野憲二名誉教授らの研究グループが、大脳皮質後頭・頭頂連合野の一部である MST野(Medial Superior Temporal Area) が、眼の動きの前後で生じる2枚のずれた網膜像を統合して、滑らかで連続した視覚世界を維持する脳の仕組みに関与していることを明らかにしたことを発表した。この研究成果は、英科学誌「Scientific Reports」に2月23日付けで掲載されている。
画像はリリースより
ヒトは1秒間に数回という非常に高い頻度で急速に眼を動かしている。ビデオカメラを眼と同様に動かしながら撮影するとその映像はブレてしまうが、ヒトは眼を動かしても安定して知覚することができる。これはどのような脳の仕組みで実現されているのか、17世紀頃から研究が行われてきたが、その実態は明らかになっていなかった。
脳機能障害の診断や機能改善に役立つ可能性
研究グループはこれまでに、サルの大脳高次視覚野から神経活動を記録・解析し、これまでに大脳皮質後頭・頭頂連合野の一部であるMST野が、眼が動くことによって生じる網膜像の動きの補正に関与すること(Inaba et al. 2007 J Neurophysiol. ほか)と、眼を動かす前の視覚情報の記憶を眼が動いた後に呼び起こし、眼の動きにより途切れた視覚情報を埋める仕組みに関与すること(Inaba and Kawano 2014 PNAS)を明らかにしていた。
今回の研究では、眼の位置によって神経細胞の視覚受容野の応答感度にどのような変化が生じるのかを調査。その結果、MST野の神経細胞が、眼が動いた後に呼び起こされる過去の視覚情報の記憶痕跡と同時に、現在の眼球位置の情報を併せ持つことを明らかにした。この結果は、MST野の神経細胞が、眼の動きの前後で生じる2枚のずれた網膜像を、眼が動く前と後の眼球位置情報を使うことにより、補正し統合することで、滑らかで連続した視覚世界の維持に関与している可能性を示唆しているという。
今回の知見は、ヒトが絶えず行っているさまざまな視覚情報処理の脳内メカニズムの解明に不可欠であると同時に、脳機能障害の診断および機能改善などに役立つ、と研究グループは述べている。
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