マウス大脳皮質の神経細を、本来と異なる場所に人為的に配置
慶應義塾大学は2月23日、マウスの子宮内胎児の大脳皮質の神経細胞を、人為的に本来と異なる場所に配置させると、神経細胞としての最終運命が変化し、本来の形や性質が異なる別の種類の神経細胞に変化することを見出した研究結果を発表した。
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この研究は、同大学医学部解剖学教室の大石康二講師(非常勤)と、仲嶋一範教授らの研究チームによるもの。研究成果は、「eLIFE」オンライン版の2月12日に掲載された。
脳の高次機能を担う大脳皮質は、異なった形や性質を持つ様々な種類の神経細胞から構成されている。これまで、これらの神経細胞の最終的な形や性質は、胎生期にそれらの細胞が生まれる時に既に運命付けされて決まっていると考えられてきた。しかし、神経細胞が自身の置かれている場所の環境に適応して別の種類の神経細胞に分化することができるのかどうかは、よくわかっていなかった。
神経細胞が環境に応じて適切に分化しうる可能性、細胞治療の開発に期待
研究グループは、大脳皮質の第4層の神経細胞に特異的に発現するプロトカドヘリン20(Pcdh20)という膜タンパク質に着目。このタンパク質の発現を、子宮内胎児脳電気穿孔法という方法を用いて、発生過程のマウス大脳において人為的に阻害した。Pcdh20の発現が阻害された細胞は、蛍光タンパク質によって光るようにしてあり、最終的な脳内の位置や形態を追跡することができるようにしたとしている。
その結果、Pcdh20の発現を阻害された神経細胞は、本来の第4層ではなく、第2~3層に配置されるようになることがわかった。その際、これらの神経細胞は第4層細胞の特徴を示さず、人為的に配置された場所である第2~3層の神経細胞に特有の形態、連絡様式、遺伝子発現様式などの特徴を示すことがわかった。これは、本来は第4層の神経細胞になるはずの細胞が、その運命を変えて第2~3層神経細胞に変わってしまうことを示唆している。
これらの成果により、神経細胞の種類が細胞誕生時に完全に決まっているのではなく、配置された場所の環境に応じて変化しうることが明らかになった。現在、さまざまな疾患に対して、iPS細胞などから分化させた細胞を移植して治療する、細胞治療が注目されているが、今回、神経細胞はその種類によっては環境に応じて適切に分化しうる可能性を秘めていることがわかり、今後の細胞治療の開発につながることが期待される。
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