腫瘍内不均一性、遺伝子変異の蓄積による「中立進化」によって
九州大学は2月19日、大腸がんが非常に多様な遺伝子変異を持つ、不均一な細胞集団から構成されていること、またがん細胞の生存とは関係のない遺伝子変異の蓄積による「中立進化」よってこのような腫瘍内不均一性が生まれることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学病院別府病院の三森功士教授と、HPCI戦略プログラム分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」プロジェクトの東京大学医科学研究所の新井田厚司助教、宮野悟教授、大阪大学大学院医学系研究科の森正樹教授らの研究グループによるもの。研究成果は米学術誌「PLOS Genetics」に2月18日付けで掲載された。
画像はリリースより
大腸がんはひとつの正常な大腸粘膜細胞が遺伝子変異を蓄積しながら進化し、異常増殖することで発生すると考えられている。この遺伝子変異の組み合わせは患者ごとに異なり、さらに1人の患者のがんの中でも異なる遺伝子変異の組み合わせを持つ細胞が多く存在し、 ひとつのがんを構成していることも明らかになっている。この現象は腫瘍内不均一性と呼ばれており、がんの治療抵抗性の一因と考えられている。
ある抗がん剤が効く細胞がひとつの腫瘍の大部分を占めているとき、それらの細胞には抗がん剤が有効だが、もしその抗がん剤への耐性を引き起こす遺伝子変異を持つ細胞が存在すると、そのうち耐性細胞が増えることによってがんは再発してしまう。これまで、多くの大腸がんに関わる遺伝子変異が同定されてきたが、実際どのように遺伝子変異が蓄積されながらがんが進化するか、また大腸がんにどのような腫瘍内不均一性が存在するかは明らかではなかった。
がんに対する新しい治療法や治療戦略生み出す基盤に
がんの進化や不均一性を明らかにする方法として、ひとつのがんから複数の位置の異なる部位を採取し、解析する方法がある。研究グループは、9 症例の大腸がんからそれぞれ5~21か所、合計75か所の検体採取を行い、複数の部位の大規模遺伝子変異解析を実施。次世代シークエンサーなどを用いて複数のタイプの遺伝子変異の不均一性を統合的に評価した。その結果、大腸がんには一塩基変異、コピー数異常、DNA メチル化といったさまざまなタイプの遺伝子変異について高い腫瘍内不均一性が存在することが明らかになったとしている。
また、進化の前半に見られる遺伝子変異の特徴として、加齢と関連する異常が挙げられた。この加齢と進化初期異常の関連について、アメリカの国家プロジェクト「The Cancer Genome Atlas」によって公開されている大腸がん約260 例の大規模遺伝子変異データをヒトゲノム解析センターのスーパーコンピューターを用いて再解析することで検証。さらに、東京大学医科学研究所の協力で、スーパーコンピューター「京」を利用してがんの進化をシミュレーションすることにより、このような高い腫瘍内不均一性がどのようにして生まれるかを明らかにしたという。
これら大規模遺伝子変異解析の結果とシミュレーションの結果合わせて考えることにより、腫瘍内不均一性はがん細胞に有利になるような遺伝子変異が選択されて蓄積する「ダーウィン的進化」によるものというより、がん細胞の生存とは関係のない遺伝子変異の蓄積による「中立進化」によって生み出していることが強く推測された。この成果は、がんに対する新しい治療法や治療戦略を生み出すための基盤になると期待される、と研究グループは述べている。
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