多剤耐性化した赤痢菌が蔓延し、治療や制御が困難な状況に
岡山大学は2月19日、同大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の三好伸一教授らの研究グループが主要な赤痢菌6種類の加熱死菌を混合した標品を実験動物に定期的に経口投与して不活化ワクチンとしての可能性を研究し、受動免疫実験系、能動免疫実験系の実験を通して十分な免疫誘導効果と感染防御効果があることを見出したと発表した。
同大学は、文部科学省の新興・再興感染症研究拠点形成プログラムに採択され、2007年にインド・コルカタ市のインド国立コレラおよび腸管感染症研究所内に、岡山大学インド感染症共同研究センター(インド拠点)を設置。インドでの(死亡)患者数が多い下痢症(コレラ、赤痢など)の制御に資する国際共同研究を行っており、そのひとつに廉価な経口赤痢ワクチンの開発研究がある。なお、現在まで、実用化されている赤痢ワクチンはない。
赤痢は腸管組織が破壊され、出血を伴う下痢症であるため、その死亡者数はインドなどの途上国を中心に年間60万人に達している。そのため、世界保健機関は赤痢ワクチンの開発を喫緊の研究課題のひとつに指定。多剤耐性化した赤痢菌が蔓延し、赤痢の治療や制御が困難な状況になりつつある。
アカゲザルを用いて、免疫誘導効果を調べる臨床研究を計画中
研究グループは、主要な志賀赤痢菌、フレクスナー菌2a、フレクスナー菌3a、フレクスナー菌6、ボイド菌、ソンネ菌の赤痢菌6種類の加熱死菌を混合した標品を調製し、マウスやモルモットなどの実験動物に定期的に経口投与して、不活化赤痢ワクチンとしての可能性を研究。同標品が、経口赤痢ワクチンの候補として有力であることを証明したとしている。
研究グループによると、加熱死菌の混合物を投与した母マウスから生まれてきた乳飲みマウスを用いた実験系(受動免疫実験系)と、加熱死菌の混合物を投与した成体のモルモットあるいはウサギを用いた実験系(能動免疫実験系)の両実験を実施したところ、いずれの実験系でも十分な免疫誘導効果と感染防御効果が示された。また、ヒト培養細胞を用いた試験では、細胞への毒性は認められず、サイトカインなどの免疫因子の強い産生誘導が観察されたという。
今後は、アカゲザル(赤痢菌の自然宿主)を用いて、免疫誘導効果と感染防御効果を調査するほか、インド・コルカタ市での臨床研究を計画している。研究成果により、赤痢の制御が極めて困難となる前に、汎用性の高い、廉価な赤痢ワクチンの開発と製品化が期待されている。
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