患者数850万人も根本的な治療薬開発されておらず
東京医科歯科大学は2月15日、同大学再生医療研究センターの関矢一郎教授と大関信武助教らの研究グループがラットを用いた研究で、膝関節の滑膜より培養した体性幹細胞(滑膜幹細胞)を定期的に関節内注射することで、変形性膝関節症の進行を予防することに成功したと発表した。研究成果は国際科学誌「Osteoarthritis and Cartilage」(変形性関節症と軟骨)に、英国時間の2月12日付けでオンライン発表された。
画像はリリースより
変形性膝関節症は、膝関節軟骨の摩耗・消失を特徴とする主に加齢に伴う疾患であり、日本には850万人の患者がいると推定されている。その病態は複雑なため、いまだ根本的な治療薬は開発されていない。
研究グループは、これまでに滑膜由来の体性幹細胞(滑膜幹細胞)を、関節鏡を使用して軟骨欠損部に移植することで、軟骨を再生させ、半月板損傷を修復させる治療法の開発に取り組んできた。今回の研究では、変形性膝関節症の進行の予防のための効果的な滑膜幹細胞投与方法の確立と、その作用機序を明らかにすることを目的にしたとしている。
滑膜幹細胞が軟骨保護や炎症抑制作用ある栄養因子を産生
研究グループによると、まずは、変形性膝関節症を発症させるため、ラットの膝前十字靱帯を切離。無処置の場合には、切離後8週で軟骨損傷と滑膜炎を認めたが、術後1週より滑膜幹細胞を毎週関節内に投与すると、軟骨変化と滑膜炎の進行が明らかに抑えられた。一方、滑膜幹細胞を1回だけ関節内に投与しても、効果が限定的であることが認められた。細胞を追跡できるように遺伝子改変ラットから樹立した滑膜幹細胞を関節内注射して、イメージング技術を用いて関節内注射後の滑膜幹細胞の動態を経時的に解析すると、1回のみの投与では3~4週で投与細胞はほぼ消失したが、毎週投与した場合は常に検出。これらのことから、滑膜幹細胞の効果を十分に維持するには、定期的に投与することが有効であることがわかった。
また、関節内注射した細胞は関節内において軟骨や半月板には分布せず、滑膜に生着していた。さらに滑膜に生着した滑膜幹細胞は、投与前と変わらず幹細胞の特徴を維持していた。ヒトの滑膜幹細胞をラットに関節内注射して遺伝子発現変化を調べると、滑膜生着後に1,060種類のヒト遺伝子の発現が上昇し、この中には軟骨保護や炎症抑制に関するものが多数あった。これらのことから、関節内注射した滑膜幹細胞は滑膜に生着後も幹細胞の特徴を維持したまま、軟骨保護や炎症抑制に関連する栄養因子を産生することで、軟骨の摩耗を抑えるという機序が明らかになったとしている。
近年、変形性膝関節症に対して脂肪組織由来の体性幹細胞を1回だけ関節内注射する治療法が、日本でも保険外診療として行われている。今回、研究グループは、幹細胞を1回ではなく定期的に投与する必要性と、投与した細胞の動態・作用機序を初めて解明。この研究成果を踏まえ、今後、変形性膝関節症の予防・治療を目的に、滑膜幹細胞の定期的関節内注射による臨床研究を計画する予定となっている。
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