Cas9の分子構造を改変、新規のゲノム編集ツールを開発
東京大学は2月12日、ゲノム編集に利用されるCRISPR-Cas9の結晶構造を解明、Cas9の分子構造を改変し、新規のゲノム編集ツールを開発したと発表した。この研究は、同大理学系研究科の平野央人大学院生、西増弘志助教、石谷隆一郎准教授、濡木理教授の研究グループが、Massachusetts Institute of TechnologyのFeng Zhang博士、群馬大学の畑田出穂教授、堀居拓郎助教らとの共同で行ったものである。
画像はリリースより
あらゆる生物は、ゲノムDNAの塩基配列を生命の設計図として利用している。近年、ゲノムDNAの塩基配列を人為的に改変するゲノム編集技術が開発され、遺伝子の機能を調べるための実験手法として生命科学研究に革新をもたらした。さらに、ゲノム編集技術を用いた動植物の品種改良や遺伝子治療といった応用研究も世界中で進められている。
ゲノム編集を行うためには、改変したい部分のDNA配列を切断し、細胞のもつDNA修復機構を利用する手法がよく用いられている。膨大なゲノムDNA(ヒトでは約30億塩基対)のなかから、目的の配列のみを選択的に切断することは技術的に困難とされてきたが、2013年、CRISPR-Cas9とよばれるDNA切断酵素を利用することによりゲノムDNA中のねらった場所を正確に切断できることが報告され、効率的なゲノム編集が可能となった。
Cas9タンパク質はガイド鎖RNAと複合体を形成し、ガイド鎖RNAと相補的な2本鎖DNAを切断する機能をもつため、ガイド鎖RNAを交換することにより、さまざまな2本鎖DNAを選択的に切断することができる。しかし、Cas9が標的DNAを切断するには、PAMと呼ばれる特定の塩基配列が標的配列の近くに存在する必要があるため、標的配列には制約が存在するという問題点が残されていた。
CRISPR-Cas9を利用したゲノム編集の効率化に期待
今回、研究グループは細菌Francisella novicidaに由来するCas9(FnCas9)に着目し、構造機能研究を実施。機能解析の結果、FnCas9はNGGという塩基配列をPAMとして認識することが明らかになったという。
次に、FnCas9-ガイド鎖RNA-標的DNA複合体の結晶構造を決定し、FnCas9がNGG PAMを認識する分子機構を明らかにした。さらに、YGという塩基配列をPAMとして認識するFnCas9改変体を作り出し、マウス受精卵においてYG PAMをもつ標的配列のゲノム編集に成功したという。
この研究結果は、CRISPR-Cas9機構のさらなる理解、および、ゲノム編集の効率化につながることが期待される。なお、この成果は米学術誌「Cell」オンライン版に、2月11日付けで公開されている。
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・東京大学大学院理学系研究科・理学部 プレスリリース