酵素タンパク質「PTPRZ」の発現上昇がグリオーマの悪性化へ関与
基礎生物学研究所は2月9日、PTPRZの酵素活性を阻害する化合物開発が神経膠腫(グリオーマ)治療に有効であることを、培養細胞を用いた実験やラットをモデルとした実験で証明したと発表した。
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この研究は、同研究所統合神経生物学研究部門の野田昌晴教授、藤川顕寛研究員らが、アスビオファーマ株式会社、岡崎統合バイオサイエンスセンター生体分子機能研究部門および、大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学研究室と共同で実施したもの。研究成果は、オンライン科学雑誌「Scientific Reports」に同日付けで掲載されている。
脳腫瘍の1つであるグリオーマは、脳内にもともと存在するグリア細胞ががん化して形成される固形がん。とくに悪性なグリオーマはグリオブラストーマと呼ばれ、有効な治療法のない難治性疾患である。グリオーマでは、一般にPTPRZという酵素タンパク質の発現が上昇しており、悪性化への関与が指摘されていた。
低分子化合物「SCB4380」がPTPRZの酵素活性を選択的に阻害
今回、研究グループはPTPRZの酵素活性を阻害する化合物開発がグリオーマ治療に有効であることを、培養細胞を用いた実験やラットをモデルとした実験で証明。PTPRZの酵素活性を選択的に阻害する低分子化合物SCB4380を初めて取得し、PTPRZの活性阻害によってラット由来のグリオブラストーマ細胞による移植腫瘍の成長が抑制されることを実験的に示したという。
この研究成果は、グリオブラストーマの悪性表現型がPTPRZの働きを阻害することで抑制可能であることを初めて実証したもの。PTPRZの阻害剤には、グリオーマ細胞の細胞増殖や細胞移動を抑制し、腫瘍の増大や正常組織への浸潤を抑える薬理作用があることが判った。したがって、現在のグリオーマ治療で用いられている「テモゾロミド」と併用することによって相乗効果が期待される。
現在、統合神経生物学研究部門の研究チームでは、更なる阻害剤の探索とグリオーマの悪性化に関わるPTPRZのシグナル伝達経路の解明に取り組んでいるという。また、ヒト由来のグリオーマ細胞に対するPTPRZ阻害剤の効果を検証する準備を進めていくとしている。
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・基礎生物学研究所 プレスリリース