毛包幹細胞が表皮となって落屑するため、毛包小さくなり消失
東京医科歯科大学は2月5日、加齢に伴う薄毛や脱毛の原因が、幹細胞が老化して維持できなくなりフケ・垢とともに皮膚表面から脱落していくことによるもので、その結果、毛を生やす小器官が段階的にミニチュア化(矮小化)するため薄毛・脱毛が引き起こされることをつきとめたと発表した。この研究は同大学難治疾患研究所幹細胞医学分野の松村寛行助教、毛利泰彰特任助教、西村栄美教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Science」2月5日号に発表されている。
画像はリリースより
研究グループによると、体の中の臓器は加齢によって次第に小さくなり機能も低下。皮膚も加齢に伴って次第に薄くなり、毛も細くなって減ってくる。老化の仕組みについては古くから諸説提唱され、線虫や培養細胞、老化モデルマウスなどを用いた老化研究が盛んに行われてきた。しかし、実際に生体内でどのような変化が起こっているのか、細胞運命や細胞動態の詳細は不明で、組織や臓器レベルでの老化にプログラムが存在するのかは明らかではなく、老化の仕組みについての解明は困難と考えられてきた。
そこで、研究チームは毛を生やす小器官である毛包が、幹細胞を頂点とした幹細胞システムを構築していることと、マウスにおいても加齢によって薄毛が見られることに注目し、マウスの毛包幹細胞の運命を生体内で長期に渡って追跡し、ヒトの頭皮の加齢変化と合わせて解析したという。
脱毛症の治療法開発やその他の加齢関連疾患治療応用も
その結果、毛包幹細胞は毛周期ごとに分裂するが、加齢に伴って自己複製しなくなり、毛をつくる細胞を生み出す代わりに、表皮の角化細胞へと運命を変えたのち、皮膚表面から落屑する(フケ・垢として脱落していく)ことがわかった。これによって毛包幹細胞プールとそのニッチが段階的に縮小し、毛包自体が矮小化するため、生えてくる毛が細くなって失われていくことが明らかになった。毛包のミニチュア化は、男性型脱毛症に特徴的な変化であると考えられてきたが、生理的な加齢変化として進行していくという。
毛周期ごとに毛包幹細胞が分裂して自己複製すると同時に毛になる細胞を供給するが、その際に生じたDNAの傷を修復するための反応が加齢に伴って遷延する細胞が現れる。このような毛包幹細胞では、その維持において重要な分子であるXVII型コラーゲンが分解され、これによって毛包幹細胞が幹細胞性を失って表皮角化細胞へと分化するよう運命づけられることをマウスで見出し、ヒトの頭皮の毛包においても同様の現象を確認した。
さらに、マウスの毛包幹細胞においてXVII型コラーゲンの枯渇を抑制すると、一連のダイナミックな加齢変化を抑制できることも判明。これらのことから、組織・臓器に“幹細胞を中心とした老化プログラム”が存在することを初めて明らかにし、また、その制御によって様々な加齢関連疾患の予防や治療へと役立つことが示唆された。
この研究成果は、老化の仕組みについて新しい視点を与えると同時に、脱毛症の治療法の開発やその他の加齢関連疾患の治療へとつながることが期待されると研究グループは述べている。
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