静脈血栓塞栓症の新たな治療選択肢に
生活習慣の変化や高齢化の進む日本で今後、患者が増加することが予測される疾患に、静脈血栓塞栓症(VTE)がある。VTEのリスク因子には、アンチトロンビン欠乏症やネフローゼ症候群、妊娠などによる「凝固能亢進」や、長期臥床や脳血管障害などによる「静脈血うっ滞」、手術やカテーテル検査などによる「静脈壁損傷」などが挙げられる。近年、その症例数は増加の一途をたどっており、厚生労働省研究班の調査などによると、2012年には1万5,000例を超える症例が報告されている。
三重大学大学院 循環器・腎臓内科学客員教授
村瀬病院副院長の中村真潮氏
従来のVTE治療では、未分画ヘパリンとワルファリンもしくは、Xa阻害薬フォンダパリヌクスとワルファリンが用いられていたが、未分画ヘパリンについてはコントロールが難しいうえに再発が多く、また、フォンダパリヌクスでは注射薬であるがゆえに外来治療が困難になるという課題があった。
ブリストル・マイヤーズ株式会社とファイザー株式会社が共同開発した経口抗凝固薬「エリキュース(R)錠」(一般名:アピキサバン)は、2015年12月に「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制」の新たな効能・効果の承認を取得。VTE治療の新たな選択肢となった。これを受けて2016年1月に都内でプレスセミナーを開催。三重大学大学院 循環器・腎臓内科学客員教授、村瀬病院副院長の中村真潮氏が新規経口抗凝固薬が担う役割について、講演を行った。
国内第3相試験でも良好な結果
VTE治療における同剤の用法・用量は、まず再発リスクが高い最初の7日間は、1回10mgを1日2回、それ以降は再発予防に主眼を置いて1回5mgを1日2回となっている。同剤の特徴について、中村先生は「発症時からの内服治療のエビデンスがある」、「初期から長期にかけての安定した抗血栓効果」、「従来の経口治療と類似したシンプルな用法・用量」の3点を挙げた。「ただし、腎障害、高齢、低体重、抗血小板薬併用のいずれかの患者さんの場合、初期治療時の出血性合併症には留意が必要です」(中村先生)
急性症候性VTE患者を対象とした海外第3相試験のAMPLIFY試験において、1回10mgを1日2回(BID)、7日間経口投与した後、1回5mg BIDを6か月間投与する群では、海外の標準治療であるエノキサパリン/ワルファリンを投与する群に対して、主要有効性評価項目である症候性VTEの再発またはVTE関連死について非劣性を示し、主要安全性評価項目である大出血の発現リスクは、標準治療に対して69%低下し、優越性を示した。
また、日本人の急性症候性VTE患者を対象とした国内第3相試験のAMPLIFY-J試験においても、主要評価項目として設定された大出血または臨床的に重要な非大出血事象の発現割合で、日本の標準治療である未分画ヘパリン/ワルファリンと比較して、エリキュースは良好な結果を示し、VTE患者での安全性および有効性において、AMPLIFY試験と同様の結果が得られている。
安全性が高く、投与方法がシンプルな薬の登場により、今後は外来治療が行いやすくなることが期待される。