うつ状態は環境要因の影響大きく、遺伝要因の解析のみで解明困難
日本医療研究開発機構は1月28日、うつ状態の遺伝環境相互作用の解析を行った結果、うつ状態に対し、ストレスを感じるような出来事とBMP2遺伝子近傍の遺伝子多型の相互作用が有意に関連することを同定したと発表した。
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この研究は、藤田保健衛生大学医学部精神神経科学の岩田仲生教授の研究グループが、理化学研究所統合生命医科学研究センターの久保充明副センターらとの共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌「Journal of Clinical Psychiatry」のオンライン版に米国東部時間の1月27日付けで掲載された。
他の疾患と同様に、うつ病に関しても過去に多くの疫学的研究が行われてきている。その中で、確定的なこととして分かっている数少ない事実のひとつとして、例えば、病気や怪我、親しい人の死別などのストレスを感じるような「ストレスフルライフイベント」はうつ病のリスクとなりうることが挙げられている。
しかし、同じような出来事を経験しても、うつ病にかかりやすかったり、そうでなかったりする場合があり、「体質」、言い換えれば遺伝要因も関係すると想定されている。そのため、環境要因の情報を具備した対象者における遺伝子解析技法を用いた観察研究(ゲノムコホート研究)が重要と考えられるが、現時点では、十分なサンプル数を用いたうつ病のゲノムコホート研究は報告されていなかった。
労働者を長期間経過観察し、様々な環境要因の情報集積
今回の研究では、藤田保健衛生大学病院の看護師を対象にした観察研究(ゲノムコホート研究)を実施。対象者である1,559人の看護師に文書と口頭で説明し、1,112人から文書による同意を得た。脳科学研究戦略推進プログラムの生命倫理グループの助言を得ながら、プライバシー保護に留意して研究を進めたとしている。
対象者は、登録時より2年間は年4回、その後は年2回のアンケートに回答。内容は、うつ状態の指標、ストレスフルライフイベントの有無に加え、昨年12月より施行されたストレスチェック制度で使用される「職業性ストレス簡易調査票」など。また、対象者から提供された唾液からDNAを抽出し、全ゲノム上を網羅する一塩基多型(SNP)を約90万個決定した。
遺伝環境相互作用解析に当たり、最も重いうつ状態を示した時点のうつ状態スコアから、「うつ状態群」と「非うつ状態群」の2群に分割。この質的な変数に対し、ストレスフルライフイベント、SNPおよびそれらの相互作用との関連を検討した。SNPの品質管理などから、最終的に1,088人について解析を行ったところ、MP2遺伝子近傍のSNPとストレスフルライフイベントの相互作用が、統計学的に有意にうつ状態と関連することを見出した。抗うつ薬の作用点であるセロトニントランスポーターなど、古くから知られる候補遺伝子には、有意な関連は認められなかった。
一方で、環境要因を加味せず、遺伝要因(SNP)のみで解析した場合、有意となるSNPは同定できなかった。したがって、遺伝と環境の両者(すなわちそれらの相互作用)を鑑みることで、初めてうつ状態に関連する遺伝子を同定できたのではないかと考えられるとしている。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース