毎年1400人が新規発症
順天堂大学は1月29日、同大学大学院医学研究科・血液内科の小松則夫教授、輸血・幹細胞制御学の荒木真理人准教授らの研究グループが、フィラデルフィア染色体陰性骨髄増殖性腫瘍(骨髄増殖性腫瘍)患者において見出されたCALR遺伝子変異による、造血細胞腫瘍化の分子メカニズムを明らかにしたと発表した。研究成果は、アメリカ血液学会誌「Blood」のオンライン版に1月28日付けで公開された。
画像はリリースより
一年間に国内で約1,400人が新規に発症する骨髄増殖性腫瘍は、多分化能を有する血液幹細胞における体細胞変異によって引き起こされる造血器腫瘍。ほとんどの骨髄増殖性腫瘍症例において、サイトカインシグナル伝達に関わるJAK2やMPL3遺伝子、あるいは分子シャペロンであるCALR遺伝子のいずれかに、遺伝子変異が起こるとされている。
これまでに、JAK2やMPL遺伝子の変異が、サイトカイン受容体を恒常的に活性化することが解明されたことから、骨髄増殖性腫瘍に対する治療薬としてJAK2阻害剤が開発され、患者への治療に効果をあげつつある。しかし、最近見つかったCALR遺伝子変異については、どのような分子メカニズムで骨髄増殖性腫瘍が引き起こされるか不明であったため、発症原因を標的とした有効な治療ができていなかった。
分子標的薬剤の開発に期待
そこで研究グループは、CALR遺伝子変異がどのようにして骨髄増殖性腫瘍を引き起こすのかを検証。まずはCALR遺伝子変異が、骨髄増殖性腫瘍の中でも、血小板増加の見られる疾患群に集中していることから、血小板産生に関わる巨核球細胞に異常があると考え、巨核球細胞の分化や増殖に必須なトロンボポエチン(TPO)とその受容体であるMPLに着目した。
その結果、変異型CALR蛋白質がMPLと結合して、TPO非存在下においてもMPLを活性化することを発見。このことから、CALR遺伝子に変異のある骨髄増殖性腫瘍症例では、通常、TPO存在下において活性化を受けるTPO受容体が、変異CALR蛋白質により異常な活性化を受けることにより、細胞が腫瘍化することが明らかになった。さらに、変異型CALR蛋白質のMPLとの結合は、変異型蛋白質に特徴的な構造により生み出されていることもわかったとしている。
今回の研究成果が、変異CALR蛋白質によるTPO受容体の活性化を阻害する分子標的薬剤の開発につながり、骨髄増殖性腫瘍の治療が可能になることが期待される。研究グループは今後、変異CALR蛋白質とTPO受容体の結合の阻害などを中心に、治療薬の開発に向けて研究を進めていくとしている。
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