アルツハイマー病に次ぎ、頻度高い脳神経疾患
放射線医学総合研究所は1月29日、独自に開発したPET薬剤[11C]ITDMを用い、パーキンソン病(PD)の病態進行に伴い脳内の代謝型グルタミン酸受容体1(mGluR1)の発現量が経時的に変化することを世界で初めて明らかにしたと発表した。
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この研究は、同研究所分子イメージング研究センター分子認識研究プログラムの山崎友照研究員らによって行われたもの。研究成果は、米国神経科学会発行の「The Journal of Neuroscience」に1月13日付けで掲載された。
PDは、アルツハイマー病に次いで頻度の高い脳神経疾患で、日本における有病率は10万人当たり100~150人の難病。これまでの研究から、PD患者の脳内にはα-シヌクレインとよばれる異常タンパクの蓄積が認められること、さらに運動や認知機能の低下には、脳内のドーパミン神経系やコリン神経系の障害が関与していることが分かっている。しかし、異常タンパクの蓄積から、これらの神経障害に至るまでの病態背景については分かっていなかった。
異常タンパク蓄積が引き起こす脳神経疾患の病態背景解明に期待
近年、PDを含む様々な脳神経疾患で異常タンパク蓄積のような脳内環境の変化がmGluR1などの神経受容体の発現量を変化させることが分かってきた。そこで、研究グループは、mGluR1の発現量とPDの病態との関連性を検証することで、異常タンパクの蓄積が引き起こす神経障害の病態背景の一端を明らかにできるのではないかと考えた。
研究では、PDモデル動物に[11C]ITDMを投与してPETによる脳内mGluR1の発現量測定を長期間実施し、発現量の経時的な変化と病態との関連性を検証。その結果、PDラットの線条体において、明らかな行動障害が現れる前後でmGluR1の発現量が大きく変化し、運動障害の進行に伴って減少していくことが分かった。また、mGluR1の発現量変化は、運動障害の病態スコアと強い相関を示したとしている。
この研究により、異常タンパクの蓄積は、mGluR1が関与するグルタミン酸神経系の異常を引き起こし、このことが運動障害と密接に関与していることが示唆された。今回の研究結果は、α-シヌクレイン以外の異常タンパクの蓄積により引き起こされる様々な脳神経疾患の病態背景の解明でも重要な知見と考えられる。さらにmGluR1は、異常タンパクの蓄積が引き起こす脳神経疾患において、その疾患の進行度の客観的な判定に有効なバイオマーカーとなることが期待されると研究グループは述べている。
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・放射線医学総合研究所 プレスリリース