自己免疫疾患モデルマウスを用いて検証
慶應義塾大学は1月26日、自己免疫疾患モデルマウスを用いて、自己免疫疾患によって生じる強皮症などの線維化疾患の病態を引き起こす細胞源が、骨髄に存在する「間葉系幹細胞」(MSC)であることを発見した研究結果を発表した。この研究は、同大学医学部眼科学教室(坪田一男教授)と生理学教室(岡野栄之教授)の研究グループによるもの。研究成果は「eLife」オンライン版に同日付けで掲載された。
画像はリリースより
研究グループによると、全身の線維化は、自己免疫疾患が持つ特徴のひとつで、免疫系が自己の細胞を異物と誤って認識し、体の結合組織を攻撃することによって生じる。T細胞をはじめとした免疫担当細胞が結合組織に集積して、特に強皮症では皮膚硬化を来す。肺や他の内臓の臓器に障害を与えることもあるが、これまで何が個体の結合組織にT細胞を集積させるのか不明な部分があった。
研究では、強皮症モデルマウスで自己免疫疾患の線維化がどのように発症するか病態を追究するために、ドナー骨髄幹細胞の中から新鮮造血幹細胞と新鮮MSCを分離して、培養をせずにレシピエントへ移植し、多方面から検証。MSCがレシピエントにおいて、異常な免疫応答を引き起こすか否か、全身線維化に関わるか否かを追究した。
骨髄移植による重篤な合併症GVHDの予防法開発に期待
マウスMSCと造血幹細胞を培養せずに直接分離し、強皮症モデルマウスに骨髄幹細胞をさまざまな組み合わせで移植し、その動態を調べた結果、ドナーの新鮮MSCを移植した時のみにレシピエントにおいて強皮症のような炎症および線維化を起こすことを各臓器で示した。
また、蛍光色素(GFP)で緑色に標識されたドナーマウスのMSCを移植したのち、レシピエントの標的組織におけるドナーMSC由来線維芽細胞の集積を確認。自己免疫疾患の標的臓器のひとつである涙腺の培養線維芽細胞にもドナー由来MSCを多数確認した。T細胞とドナーMSCの相互作用の局在も示した。
ドナーMSC移植後のレシピエントT細胞を、胸腺がないためにT細胞が作られない突然変異系統のマウスであるヌードマウスにAdoptive transferをしたところ、強皮症に類似した炎症と線維化が引き起こされた。これによって、T細胞が自己免疫疾患を引き起こすように教育されたことが判明。骨髄幹細胞からドナーMSCを除去して移植した結果、涙腺、結膜、肺、肝臓、皮膚などでの標的臓器での線維化病変が抑制されることが確認された。
骨髄移植は、血液悪性疾患に対する根治療法として広く行われているが、骨髄移植の重篤な合併症である移植片対宿主病(GVHD)の予防法はなく、治療に対する大きなリスクとなっていた。今回の研究成果により、線維化を来すさまざまな自己免疫疾患の病態解明と新規治療法の開発につながるとともに、GVHDの予防法を開発できる可能性も考えられるとしている。
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