世界初、ゲノム異常の観点から十二指腸乳頭部がんの本態解明
国立がん研究センターは1月26日、国がん研究所がんゲノミクス研究分野の谷内田真一ユニット長らの研究グループが、希少がんである十二指腸乳頭部がん(ファーター乳頭部がん)について、世界で初めて全エクソン・シーケンス解析をはじめとする大規模ゲノム解読を行い、特徴的ながん関連遺伝子(ELF3)と治療標的となり得る遺伝子異常を同定したと発表した。
画像はリリースより
がんにはさまざまな遺伝子変異が生じることが分かっており、研究グループはこれまでにも、特徴的な遺伝子変異や治療標的となり得る遺伝子異常を報告。しかし、これらの遺伝子変異は一患者(同一腫瘍)において普遍的なものではなく、発がんから治療に至る時間経過のなかで、抗がん剤が効かなくなる薬剤耐性の獲得など、さまざまな遺伝子異常を蓄積しながら変化すると考えられている。これは、ダーウィン的理論にしたがい、がん細胞が生存に適するか否かの競合的選択に曝されることで、自然淘汰され「進化」し続けていることが考えられている。
研究では、172例の十二指腸乳頭部がんの全エクソンならびにターゲット・シーケンス解析を実施。その結果、統計学的な解析で有意にがんの発生・進展と関連のある24個のドライバー遺伝子が同定された。また、KRASやTP53などよく知られているがん遺伝子・がん抑制遺伝子に加え、これまでにほとんど報告のない遺伝子であるELF3を6番目に認めた。ELF3はアミノ酸が371個の小さな遺伝子だが、十二指腸乳頭部がんでは遺伝子のさまざまな部位に変異を認め、その変異の多く(17/25、68%)はタンパクを短縮させるような有害な遺伝子変異であったため、がん抑制遺伝子と考えられるとしている。
十二指腸乳頭部がんの半数に治療標的となり得る遺伝子異常検出
さらに、正常の胆管細胞株や十二指腸細胞株を用いた実験では、ELF3遺伝子の働きを阻害すると細胞の運動能や浸潤能が亢進し、上皮間葉転換に関連する遺伝子発現の変動が観察された。これらの機能解析から、十二指腸乳頭部がんで検出された変異は、がんの浸潤や転移に関連している遺伝子異常である可能性が示唆され、ELF3の遺伝子変異は日米の患者においてほぼ同頻度で検出されたことから、人種差を超えて共通したゲノム異常であることが示された。
研究で同定した十二指腸乳頭部がんにおけるゲノム異常の中には、多くの治療標的となり得る遺伝子(他のがん種において米国で治療薬として認められているものや、他のがん種の臨床試験において効果が認められているもの)が含まれていた。さらに、それらのゲノム異常を少なくとも1つ持つがんは全体の約50%を占めていたと。これらの結果は、十二指腸乳頭部がんの治療開発を国際連携で進めていく上で、重要な情報基盤となりうるとしている。
これらの結果により、希少がんである十二指腸乳頭部がんの個別化治療や、標準治療の層別化、さらに創薬に向けた基盤データの蓄積につながることが期待される。なお、研究成果は、米国専門誌「Cancer Cell」2月号の掲載に先行し、オンライン版にて公開された。
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・国立がん研究センター プレスリリース