ヘルスケアや医療分野での圧力計測のニーズ急増
科学技術振興機構(JST)は1月26日、JST戦略的創造研究推進事業の一環として、東京大学大学院工学系研究科の染谷隆夫教授、リー・ソンウォン博士研究員らの研究グループが、世界で初めて、曲げても性質が変化しないフレキシブル圧力センサーの作製に成功したと発表した。研究成果は、英国科学雑誌「Nature Nanotechnology」オンライン速報版に1月25日付けで公開された。
画像はリリースより
近年、ウェアラブルエレクトロニクスの装着感を低減するため、生体に密着する柔らかいセンサーが活発に研究されている。これまでに、圧力、温度、ひずみを計測するセンサーが高分子基材やゴムの上に作製され、生体情報の計測に応用されてきたが、精度が低いという問題があった。
特に圧力の計測は、床ずれの予防や離床検知などヘルスケアや医療分野でのニーズが高まっており、フレキシブル圧力センサーの開発が精力的に進められてきた。ところが、柔らかい素材でできたセンサーは、曲げたりよじれたりすると、変形に伴うひずみのためにセンサーの性質が大きく変化して、正確に計測できないという問題があり、対象物が柔らかいだけでなく絶えず動いている場合には、さらに計測が難しくなる。このため、センサーを柔らかい素材で作りながら、変形しても性質が変わらず、精度も低くならないセンサーの実現が待たれていた。
ゴム手袋など柔らかな曲面上に装着して計測可能に
研究グループは、ナノファイバーを用いることによって、曲げても正確に測れる圧力センサーの開発に成功。実際に、この圧力センサーのシートを折り曲げていくと、曲げた部分が80マイクロメートル(髪の毛の倍程度の寸法)の曲率半径になっても、圧力センサーとしての性質が変化しないことが確かめられた。これは、フレキシブル圧力センサーとして世界最高感度を示す。
このセンサーは、圧力の変化を抵抗の変化として読み出すが、圧力を0から70パスカル(Pa)まで増加させると、抵抗が100分の1まで小さくなる。また、600パスカルまで増加させると、抵抗値が6桁以上小さくなる。さらに、3,000回以上、圧力を繰り返し加えても性質が変化しなかったという。
研究グループはさらに、多点計測できるフレキシブル圧力センサー(多点センサー)を作製。このセンサーは、12×12の格子状に圧力センサーを並べたもので、全体で144点の圧力を計測できる。全体の厚みは8マイクロメートル。この多点センサーは、有機トランジスターの集積回路を使って、アクティブマトリックス方式と呼ばれる手法で圧力の分布を計測する。実験では膨らませた風船の表面に多点センサーシートを乗せて、2本の指で風船を押しつぶした。風船は大きく変形したが、多点センサーはこの変形によるひずみの影響を受けずに、指で圧力をかけたところだけ正確に圧力の分布を計測することに成功したとしている。
この成果を応用すれば、風船だけでなくゴム手袋のように柔らかい曲面上でも非常に高精度な圧力の計測ができるようになる。例えば、圧力を正確に検出できるゴム手袋を用いると、これまで感覚に頼っていた乳がんのしこりの触診をセンサーで定量化するデジタル触診など、ヘルスケア、医療、福祉、スポーツなど多方面への応用が期待される。
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・科学技術振興機構 共同発表