バレット食道、日本人でも増加傾向に
国立がん研究センターは1月20日、国がん研究所分子細胞治療研究分野の山本雄介主任研究員が、新たに開発した培養手法を用いて食道がんの前がん病変と考えられていたバレット食道の組織生検サンプルから、幹細胞を単離・培養することに成功し、その存在を明らかにしたと発表した。また、幹細胞のゲノム変異解析を行い、バレット食道が前がん病変であることとがんへの進行過程も明らかにしている。
画像はリリースより
バレット食道は、食道と胃上部の接合部に発生する粘膜組織の変化で食道がん(特に腺がん)の危険因子で、食道がんの前がん病変と考えられている。主な原因は逆流性食道炎などによる炎症で、欧米で多く発症する病気だったが、食生活の変化などによって日本人においても増加傾向にある。食道がんには組織型により扁平上皮がん、腺がんなどがあり、バレット食道の発症率の上昇は腺がんの発生の増加にもつながると推測されている。
研究では、様々な進行状態の12症例のバレット食道から内視鏡により生検組織を採取し、独自に開発した新しい培養手法を用いて、安定した増殖能を持つ細胞群を単離・培養。これを、マイクロアレイ法や次世代シーケンサーを用いて包括的な遺伝子発現・変異解析を行った。この新たな培養方法により、バレット食道の幹細胞を安定して培養することができるようになり、バレット食道由来の幹細胞と正常食道由来の幹細胞にがん遺伝子を導入し、強制的にがん化させたこれらの細胞がどのような表現型を示すかを調べることが可能となった。
新たな幹細胞培養手法、食道がん以外のがん種でも病態解明につながる可能性
試験管内でがん化させたバレット食道由来の幹細胞と正常食道由来の幹細胞をマウスに移植した結果、バレット食道由来の幹細胞は食道腺がん様の腫瘍を、一方で、正常食道由来の幹細胞は食道扁平上皮がんに類似した腫瘍を形成したとしている。これらの結果より、バレット食道は食道腺がんの前がん病変であることが再確認され、がんの前がん病変でも、いわゆる「幹細胞」が存在し、病変がその細胞によって維持されている可能性が示された。
さらに、ゲノム変異解析を行った結果、病理学的により進行したバレット食道においてより多くの変異が認められた。25%の症例においてほぼゲノムの変異が認められなかったことから、バレット食道の発症に遺伝子の変異は必須ではなく、その後進展していく過程でゲノムの変異が蓄積し、より悪性度の高い腫瘍になっていくことが推察されたとしている。
今回の研究成果により、前がん病変においても幹細胞が存在し、病変の維持に関与していることが示唆された。今後さらに前がん病変の性状を明らかにすることで、前がん病変の早期検出による早期診断や、前がん病変の幹細胞の除去など新たな治療開発につながることが期待される。
なお、研究は、米国およびシンガポールの研究グループとの共同研究で行われ、研究成果は米科学誌「Nature」姉妹誌の「Nature Communications」電子版に1月19日付けで掲載された。
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・国立がん研究センター プレスリリース