37研究機関の認知ゲノム共同研究機構による多施設共同研究で
日本医療研究開発機構(AMED)は1月19日、統合失調症において、大脳皮質下領域に存在する大脳基底核のひとつである淡蒼球の体積が健常者に比べて大きいという既知の報告を再現するとともに、その健常者との差に左側優位の非対称性が存在することを新たに見出したと発表した。
画像はリリースより
この研究は、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の橋本亮太准教授、東京大学大学院医学系研究科精神医学分野の岡田直大大学院生、笠井清登教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際的な精神医学雑誌「Molecular Psychiatry」の電子版に米国東部時間の1月1日付けで掲載された。
大脳皮質下領域は、運動制御や注意・感情といった原始的な機能のみならず、前頭前野と連携して抑制の制御や作動記憶といった高次の機能にも寄与する重要な脳部位。しかしながら、大脳皮質下領域における統合失調症の病態のメカニズム解明に当たり、小規模の研究例が散見されるものの結果が一定していないため、大規模な研究による報告が待ち望まれていた。
橋本准教授は、認知機能検査、脳神経画像検査、神経生理学的検査などのデータを用いた研究を行ってきたが、その研究を発展させて国内の37研究機関からなる認知ゲノム共同研究機構(COCORO)を組織し、日本を代表する精神医学や神経科学などの研究機関がCOCOROに参加するオールジャパンの研究体制を確立した。
統合失調症患者の病態理解や治療法開発への一歩に
そこで研究グループは、COCOROに参加する11の研究機関から収集した1,680人の健常者と884人の統合失調症患者のMRI脳構造画像を比較解析し、統合失調症における大脳皮質下領域構造の体積やその左右差の変化を研究。統合失調症では、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核の体積および頭蓋内容積が健常者より小さく、両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積が健常者より大きく、先行して発表されていたvan Erpらによる海外の多施設共同研究(ENIGMA-SZ)の結果を再現した。
さらに、すべてのデータを解析センターに集積し同一データ処理を行うことにより、海外の先行研究よりも誤差の少ない高い解析精度を実現し、各構造の左右差も検討。その結果、健常群では視床、側脳室、尾状核、被殻で左側優位、海馬、扁桃体で右側優位であり、淡蒼球、側坐核では非対称性を認められなかった。統合失調症群でもほぼ同様の傾向だったが、淡蒼球体積については、統合失調症における左側優位の非対称性が存在することを新たに見出したとしている。
研究結果は、大脳皮質下領域における統合失調症の病態メカニズム解明の一助となるとともに、動機づけや意欲の障害に悩んでいる当事者の病態理解や治療法開発への一歩になると期待されている。
▼関連リンク
・日本医療研究開発機構 プレスリリース