これまでに騒音性難聴に有効な薬の開発なく
東北大学は1月14日、同大学加齢医学研究所遺伝子発現制御分野の本橋ほづみ教授と防衛医科大学校の松尾洋孝講師の研究グループが、生体の酸化ストレス応答を担う制御タンパク質NRF2の活性が、騒音性難聴のなりやすさに関連することを発見したと発表した。NRF2の活性化は、強大音による酸化ストレス障害から内耳を保護し、聴力の低下を防ぐことを明らかにしたとしている。研究成果は、1月18日に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
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騒音性難聴は、日常生活の中で強大音を聞いたことが原因となり聴力の低下をきたす状態で、頻度の高い感音難聴のひとつ。近年、内耳の酸化ストレスの増大が騒音性難聴の主要な原因であることが明らかにされた。このことから、内耳の抗酸化機能を強めることにより騒音性難聴を治療できると考えられるが、これまでに有効な薬は開発されていない。
NRF2は、酸化ストレス応答や異物代謝などの生体防御機構で中心的な役割を果たしている転写因子。NRF2の働きが障害されると、薬剤性の肝障害や、タバコの煙による肺障害が起こりやすくなる。NRF2遺伝子のプロモーター領域には一塩基多型が存在することが知られており、その多型の種類によりNRF2を多めに持つ人と、少なめに持つ人が存在するといわれている。NRF2を少なめに持つ人ではNRF2の働きが弱いと考えられ、急性肺障害が起こりやすかったり、喫煙に伴う肺がんのリスクが高くなったりすることが報告されているが、騒音性難聴のなりやすさがこのようなNRF2の量の多少を含めて、何らかの遺伝子の働きの違いに関係するかどうかは不明だった。
NRF2遺伝子の一塩基多型もつ人、騒音性難聴になりやすく
研究グルーがNRF2を欠損するマウス(Nrf2欠損マウス)に強大音を聞かせたところ、聴力の低下が顕著であり、Nrf2欠損マウスは騒音性難聴になりやすいことが分かった。そこで、正常のマウスにNRF2の働きを強める作用がある薬剤(NRF2活性化剤)を予め投与してから強大音を聴かせると聴力の低下が抑制された。このことから、NRF2働きを強めることは、騒音性難聴の予防に有効であることが明らかになった。
このマウスの実験で得られた結果を受けて、NRF2の量と、騒音性難聴のなりやすさがヒトでも関連するかどうかを調査。自衛隊中央病院で健康診断を受検した602人の陸上自衛隊員の聴力検査の結果とNRF2遺伝子の一塩基多型の相関を検討したところ、NRF2が少なめになる一塩基多型を持つ人のほうが、騒音性難聴の初期症状である4000Hzの聴力低下が多く見られることが分かった。このことから、NRF2が少なめの人は、騒音性難聴になりやすい傾向がある。
よって、NRF2の量が少なめになるNRF2遺伝子の一塩基多型をもつ人は、強大音に曝される前に予めNRF2活性化剤でNRF2の働きを強めておくことで、騒音性難聴を予防できる可能性があると考えられる。もう一つの主要な感音難聴である加齢性難聴(老人性難聴)でも、内耳の酸化ストレスがその原因であるとされている。NRF2の活性化により内耳の抗酸化機能を高めることは、加齢性難聴の軽減にもつながると期待されるとしている。
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