TNTを介してHIV-1が感染細胞から未感染細胞に移る経路を研究
熊本大学は1月18日、エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因ウイルスである「HIV-1」が、細胞から細胞へと感染拡大する際の新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、理化学研究所統合生命医科学研究センター粘膜システム研究グループの大野博司グループディレクター、環境資源科学研究センターケミカルバイオロジー研究グループの長田裕之グループディレクターと、熊本大学エイズ学研究センター・国際先端医学研究拠点施設(鈴プロジェクト研究室)の鈴伸也教授らの共同研究グループによるもの。
画像はリリースより
細胞膜の細い管である細胞膜ナノチューブ(tunneling nanotube、TNT)は、離れた2つの細胞同士を連結することで、細胞間の素早い物質交換を可能とする手段として知られている。大野グループディレクターらは2009年に、M-Secという分子がTNTの形成因子であることを発見した。
HIV-1は、CD4という表面分子を持つTリンパ球(CD4+Tリンパ球)とマクロファージという2種類の免疫細胞に感染する。これらの免疫細胞の中で増殖した新たなHIV-1は、未感染のCD4+T細胞やマクロファージへと感染することで、これらの免疫細胞の機能不全や減少を引き起こし、最終的には感染者が(あるいは個体が)免疫不全に陥る。
このようにHIV-1が感染拡大していく経路には、一度、HIV-1が感染細胞の外に出て周囲の未感染細胞に感染する経路のほかに、TNTを介してHIV-1が感染細胞から未感染細胞に移る経路が知られているが、そのメカニズムは明らかにされていなかった。
異なる作用メカニズムに基づくエイズ治療薬開発の可能性
今回の研究では、HIV-1がTNTの形成を促進することでTNTを介した細胞間感染の効率を上げていること、さらにNPD3064という化合物を用いたTNT形成の抑制によりHIV-1の産生が約2分の1に減少することも発見。この結果から、感染拡大全体の約半分はTNTを介するHIV-1の細胞間感染によると考えられるとしている。
今後の期待として、TNTの形成阻害薬が、これまでの抗エイズ薬と異なる作用メカニズムに基づく、新たなエイズの治療薬の開発につながる可能性がある。これまでのエイズ治療薬はHIV-1の増殖や細胞への侵入を阻害する薬剤だが、HIV-1自身の分子が作用の標的であり、ウイルスの変異による薬剤耐性ウイルスの出現が問題になっている。対照的に今回のTNT形成阻害は、宿主によるTNT形成を標的とするため、薬剤耐性の出現の可能性は低いと考えられ、さらに作用メカニズムの異なる従来の抗エイズ薬と併用することで、より効果的な治療の実現につがるもの考えらえると、共同研究グループは述べている。
研究成果は、米国の科学雑誌「Journal of Immunology」に掲載されるのに先立ち、オンライン版に1月16日付けで掲載された。
▼関連リンク
・熊本大学 お知らせ