■リスク認識せずネットで拡大
一般消費者を対象に、個人輸入による医療用医薬品の購入経験を調べたところ、「ある」と回答したのが全体の4.4%に上ることが明らかになった。製薬企業の有志団体が調査を実施し、厚生労働省の委託業務として医薬品の個人輸入にかかる広報啓発活動を担う「偽造医薬品等情報センター」が報告をまとめた。購入者自身は医薬品のリスクを認識しておらず、インターネット上の個人輸入代行サイトを介して、勃起不全(ED)治療薬や美容目的の抗肥満薬に加え、点眼薬、抗アレルギー薬、抗精神病薬なども手軽に購入していた実態が浮き彫りになった。医薬品の個人輸入は限定的に認められているとはいえ、今回の結果は明らかにそれを逸脱する結果となった。
医薬品の個人輸入をめぐっては、国内未承認薬で代替品がなく、外国で受けた薬物治療を継続する必要がある場合や、海外からの旅行者が常備薬として携行する場合に限り、1カ月分までは海外から入手することが認められている。ただ、近年インターネットを介した医薬品の購買活動が行われるにつれて、医療目的というより個人の嗜好で医薬品を不正に購入する一般消費者の存在が問題視されている。
今回、製薬企業の有志団体が主体となり、5万人の成人から医薬品、医療、美容、マスコミ、市場調査、制作会社を除く4万8362人に対し、医薬品の個人輸入の状況を把握するため、スクリーニング調査を実施した。
その結果、医療用医薬品を個人輸入で購入しているのが2111人と、全体の4.4%が海外から医薬品を入手していた。購入した製品を見ると、避妊薬「ピル」やホルモン製剤、養毛や美白への外用剤・抗肥満薬・ED治療薬、薄毛治療薬など美容・生活改善目的のものが約半数に上った。抗生剤や抗菌剤、抗ウイルス薬、花粉症治療薬などの抗アレルギー薬、精神神経用剤・脳代謝改善薬なども多く見られ、副作用が比較的強い薬剤や依存性がある薬剤もある。
購入量を見ると、個人輸入の上限となる「用法・用量での1カ月分」を上回っていた。1回の購入で入手する医薬品の量を薬剤ごとに聞いたところ、「1カ月分未満の使用期間分」と回答したのはほぼ全体の2~3割程度で、7割強は「1カ月以上の使用期間分」をまとめて購入していた。
スクリーニング調査から個人輸入利用者20~50代の男女数人に対し、インタビュー調査を実施したところ、インターネットの個人輸入代行サイトが医療用医薬品を購入する動機になったと回答。該当する処方薬を認知したきっかけは、医療機関での処方経験や知人からの紹介、テレビや雑誌など様々だったが、回答者全員がインターネットによる検索で薬の情報を調べると同時に、購入サイトに行き着いていた。医療用医薬品は一般市民に対して、広告等が制限されているため、製品名等での検索上位には個人輸入による購入サイトや個人のブログ(個人輸入サイトのアフィリエイト含む)などが表示される傾向にあるためだ。
その後の購買行動としては、サイト内で薬剤の価格を比較し、安い薬剤を選んで購入している。「受診するのが面倒くさい」「薬だけ入手すれば安い」という理由から、副作用リスクや安全性と品質を担保するための流通管理の有無などを意識せずに購入していることがうかがえる。
また、女性成人を対象に、医療用医薬品の個人輸入利用状況を調べた別のインターネット調査結果では、8割の一般消費者が1回に購入できる数量の上限を超えて個人輸入していた。さらに個人輸入代行業者から、新しい医薬品の紹介やお得な情報などが電子メールなどで、半年に1回以上届いているケースが全体の7割に達していた。個人輸入代行業者の広告上の違法行為も報告されており、規制も追いつかない状況にあるという。
日本の保険制度では、医療用医薬品の個人輸入に頼る必要がないと考える医療従事者も多いと見られる。しかし、ネット社会において一般の消費者は多くの情報を手に入れることが可能だ。その中には偽りの情報もあり、医薬品の副作用をあまり意識せずに、安易に購入してしまうことが考えられた。
偽造医薬品等情報センターの高梨宏事務局長は、「国内で医薬品の個人輸入利用者は想像した以上に増えており、個人輸入代行業者の日本語ウェブサイトも急増している。今後、利用者の健康被害が顕在化する可能性もあるため、一般消費者へのリスク啓発だけでなく医療従事者へもこの現状を伝えていきたい」と話す。