1個のコロニーを精度良く検出可能に
日本医療研究開発機構(AMED)は1月15日、国立医薬品食品衛生研究所、先端医療振興財団と共同で、再生医療用の移植細胞の製造中に混入または発生するがん化のリスクを持つ悪性形質転換細胞(がん細胞)を超高感度に検出する方法「デジタル軟寒天コロニー形成試験法」を開発したと発表した。
画像はリリースより
再生医療に用いられる移植細胞の製造における大きな懸念のひとつとして、細胞サンプルが誤って混ざってしまうリスクが挙げられる。中でも移植細胞の製造工程でがん細胞が混ざってしまうことは、再生医療用の移植細胞の安全性確保のうえで重要な問題となっている。このような問題に対処するため、移植細胞の製造工程管理で、有害不純物としてのがん細胞の存在を否定し、移植細胞の品質を確保する方策が求められていた。
がん細胞の特性のひとつである足場非依存性増殖を利用する軟寒天コロニー形成試験は、正常細胞中に混入する悪性形質転換細胞の存在を比較的短期間かつ簡便に評価することが可能な試験だが、従来のアッセイ法による検出感度は低く、形成された1個のコロニーを精度良く検出することは不可能だった。
そこで、研究グループでは、画像解析によるコロニー検出法の確立を試みた。その結果、細胞の核、ミトコンドリアをそれぞれ青、赤に染める生細胞染色試薬を用いてコロニーを染色し、コロニーの形状、大きさ、蛍光輝度などを指標とすることで、1個のコロニーを高精度に認識することが可能となった。さらに、ハイコンテンツイメージングシステムを利用することで、画像解析のハイスループット化(大量迅速処理)にも成功したとしている。
従来の手法と比べ、1万倍の感度向上を実現
次に、この技術を応用し、再生医療用の移植細胞中に混在するがん細胞の新たな検出法、デジタル軟寒天コロニー形成試験を考案。この実行可能性を検証するため、1000万個のヒト正常細胞(ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞)中に1個のがん細胞(HeLa細胞=株化されたヒト子宮頸がん細胞)を混入させた試料を、96ウェルプレート2枚の計160ウェルに分画し、軟寒天培養を行った。培養30日後に、細胞の染色・固定処理を施し、コロニーの解析を試みた。ハイコンテンツイメージングシステムを利用して、各ウェルの画像の取得、解析を、高速かつ効率的に行ったところ、1000万個のヒト間葉系幹細胞中に存在する1個のHeLa細胞由来のコロニーを6回の試行中4回検出することに成功。この結果は、HeLa細胞相当のがん細胞が混入する細胞試料であれば、同試験法によって0.00001%の感度で検出可能であることを示唆するものであり、従来の手法による検出感度と比較して1万倍の感度向上を実現させたという。
デジタル軟寒天コロニー形成試験を用いることにより、従来の手法と比べ1万倍向上させた世界最高感度の検出力(0.00001%混入細胞を検出)をもって正常細胞中のがん細胞の混入を評価することが可能となる。今後は再生医療用の移植細胞の品質・安全性の確保に大きく貢献できると期待される。
なお、研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に12月8日付けで掲載された。
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・日本医療研究開発機構 プレスリリース