HSF1活性化し、ヒートショックプロテイン誘導
国立がん研究センターは1月13日、これまでがん化との関連が解明されていなかった「IER5遺伝子」が、がん細胞の増殖に関与していることを世界に先駆け発見したと発表した。この研究は、国立がん研究センター研究所希少がん研究分野の大木理恵子主任研究員の研究グループが行ったもの。研究成果は、英国のオンライン科学誌「Scientific Reports」に1月12日付けで掲載された。
画像はリリースより
正常細胞では、HSF1(Heat Shock Factor 1)という転写活性化因子の活性が低く保たれているが、HSF1は熱ストレスなどにより活性化し、ヒートショックプロテイン(Heat shock protein:HSP)を誘導することで、ストレスから回復することが分かっている。近年、HSF1は、がんの発生や悪性化にも関わっていることが報告されたが、そのメカニズムは明らかになっていなかった。
研究では、IER5遺伝子が腎がん、大腸がん、膵がんなど様々ながんで発現上昇し、HSF1と結合してHSF1を活性化しヒートショックプロテインを誘導し、ストレスを回避することで、がん細胞の増殖に寄与することが示された。
がん治療薬の開発に可能性
さらに、IER5の発現を抑制するとがん細胞の増殖が抑制されること、さらにはHSF1と結合できないIER5はHSF1を活性化できないことが示され、これらのことから、IER5とHSF1の結合を阻害する化合物の探索によって、がん治療薬の開発につながることが示唆された。がん細胞は、常に低酸素や栄養不足といったストレスに晒されており、ストレス下のがん細胞を保護するIER5遺伝子の機能は、がん細胞の増殖や生存に重要であると考えられる。
現在、ヒートショックプロテイン阻害剤をがん治療薬にする開発が進んでいるが、今回の研究成果を応用した、その上流にあるIER5を阻害する化合物の開発により、より効果の高いがん治療薬の創出につながることが期待される。
また、膀胱がん、脳腫瘍などでは、IER5およびヒートショックプロテイン高発現の患者で予後不良であり、IER5・ヒートショックプロテインの発現を調べたところ、正の相関が認められたことから、IER5-HSF1-ヒートショックプロテインという経路ががんの悪性化や転移に寄与する可能性も示唆された。今後、動物モデルを使った研究により、IER5ががんの浸潤転移にどのように関わるかを明らかにするとしている。
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・国立がん研究センター プレスリリース