生体内可視化を可能とするイメージング解析技術を開発
理化学研究所は1月12日、がんや細胞内病原体に対する免疫に重要な「樹状細胞」の働きを、生体内で可視化するイメージング解析技術の開発に成功したと発表した。
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この研究は、理研統合生命医科学研究センター組織動態研究チームの岡田峰陽チームリーダー、北野正寛客員研究員と、和歌山県立医科大学医学部先端医学研究所生体調節機構研究部の改正恒康教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に1月11日付けで掲載されている。
体内に侵入した病原体や接種されたワクチンは、免疫細胞の一種である樹状細胞によって認識され、その樹状細胞がT細胞を活性化することで、体を守る獲得免疫が働く。樹状細胞には多くの種類が存在し、病原体やワクチンの種類に応じて異なった役割を果たす。
がん細胞や細胞内に潜んだ病原体に対する免疫応答には、それらに由来する抗原をMHC(主要組織適合性複合体)クラスIの上に提示(交差提示)して、CD8陽性T細胞を活性化し、キラーT細胞へと分化させる能力の高いタイプの樹状細胞が重要であることが知られている。しかし、このタイプの樹状細胞には、リンパ節などのリンパ組織に常在している樹状細胞と、皮膚などのさまざまな組織に存在し、リンパ節へ移動してくる樹状細胞の2種類の樹状細胞が含まれている。これら2種類の樹状細胞は、病原体やワクチンの種類、さらに感染部位や接種方法によって役割が異なると考えられているが、その詳細は明らかにされていなかった。その解明には、2種類の樹状細胞を識別しながら同時に生体内で可視化し、その振舞いを比較することが重要だが、これまで技術的に不可能だった。
がん免疫応答を誘導するワクチンの設計・開発に役立つ可能性も
今回、共同研究グループは、これら2種類の樹状細胞だけが特定の波長の光を当てることで蛍光色が変化する光変換蛍光タンパク質KikGRを発現するマウスを作成。このマウスの皮膚に青紫色の光を照射すると、2種類の樹状細胞のうち、皮膚にいる樹状細胞が発する蛍光だけを緑色から赤色に変化させることができた。これにより、皮膚からリンパ節へと移動してきた交差提示能を持つ樹状細胞を、可視化して追跡できるようになったとしている。
さらに、二光子レーザー顕微鏡という特殊な顕微鏡を用い、生きたマウスで、リンパ節に常在する樹状細胞と皮膚から来た樹状細胞とを、赤色と緑色の蛍光により同時に可視化。それぞれのCD8陽性T細胞との相互作用を解析できるようになったという。
共同研究グループでは、今回開発されたイメージング解析技術可視化技術を用いて、さまざまな種類のワクチンや感染に対する免疫応答を解析することで、効果の強いワクチンが、どの種類の樹状細胞とCD8陽性T細胞の相互作用を最も強く誘導しているかを知ることができるとしている。感染症の種類に応じて、最適の種類の樹状細胞をターゲットとする新しいワクチン設計・開発の道が開かれることが期待できるとともに、こうした戦略は、感染症に対するワクチンだけでなく、さまざまな腫瘍に対するがん免疫応答を誘導するワクチンの設計・開発にも応用できると考えられると述べている。
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・理化学研究所 プレスリリース