再発リスク20%以下に抑える効果あり、第3相臨床試験を実施中
理化学研究所は1月8日、肝がんの再発を予防する世界初の薬として期待され、治験が進められている「非環式レチノイド」(一般名:ペレチノイン)が、選択的に肝がん細胞の細胞死を引き起こす分子メカニズムを明らかにしたと発表した。
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この研究は、理研ライフサイエンス技術基盤研究センター微量シグナル制御技術開発特別ユニットの小嶋聡一特別ユニットリーダー(東京医科歯科大学大学院教授)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英国の科学雑誌「Cell Death & Disease」オンライン版に、2015年12月3日付けで掲載された。
肝がん(肝臓がん)は、外科的切除などで治療した後も再発する確率が高く、極めて予後不良の疾患。肝がん細胞を選択的に死滅させる非環式レチノイドは、再発リスクを20%以下に抑える効果があり、肝がん再発予防薬として、現在、第3相臨床試験が行われている。
小嶋特別ユニットリーダーらは2011年、非環式レチノイドが、肝がん細胞に特異的に作用し、通常は細胞質に存在するタンパク質架橋酵素「トランスグルタミナーゼ(TG2)」の細胞核への局在を引き起こし、細胞核で働く転写因子Sp1を過度に架橋することを発見。その結果、がん細胞の生存に必須な増殖因子受容体遺伝子の発現が抑制され、肝がん細胞が死滅することを報告した。しかし、非環式レチノイドがどのようなメカニズムで、TG2の核局在を誘導するのかは不明だった。
TG2の核移行阻害する薬の開発で、肝障害抑える可能性も
共同研究グループは今回、TG2を構成する4つのドメイン(領域)のうち、3番目のドメインに核内移行シグナル、4番目のドメインに核外移行シグナルが存在することを確認。さらに、非環式レチノイドはTG2に直接作用し、TG2と核内移行の運び屋タンパク質であるインポーチンとの複合体形成を約2倍に高めることで、がん細胞においてTG2の核局在を引き起こすことを発見したとしている。
この成果は、TG2の核移行の制御が、抗がん剤の新たな標的となることを示唆する。TG2の核移行をより特異的に、より効率良く促進する作用を持つ分子の探索により、がん細胞を死滅させる抗がん剤の開発が期待できる。
一方、正常な肝細胞では、過度のアルコール摂取や、メタボリック・シンドロームに起因する遊離脂肪酸の刺激によってTG2の核局在が起こり、正常肝細胞が死滅して肝障害が引き起こされることを、共同研究グループは報告。この場合は、逆にTG2の核移行を阻害する薬の開発により、肝障害を抑えることができるようになると考えられるとしている。
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