CagAを全身に運ぶ小胞を初めて発見
京都大学は1月8日、ピロリ菌の病原タンパク質CagAが細胞外小胞エクソソームに含まれることを初めて明らかにし、血流に乗って全身に運ばれることを見出した研究結果を発表した。この研究は、同大学大学院工学研究科の秋吉一成教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に、英国時間の1月7日付けで公開された。
画像はリリースより
ピロリ菌は、世界の総人口の約半数が感染しており、日本人でも年齢が上がるにつれて感染率が高まるとされている。中でも、病原タンパク質CagAを持つピロリ菌(CagA陽性ピロリ菌)に感染すると、胃がんを始めとする胃粘膜病変を発症するが、日本人が感染しているピロリ菌のほぼ100%はこのCagA陽性ピロリ菌であると認められている。
ピロリ菌に感染するとCagAが胃上皮細胞内の分子と結合し、がん化を促進することが知られている。最近の疫学研究では、ピロリ菌感染は心疾患や血液疾患、神経疾患などの胃粘膜病変以外のさまざまな全身疾患の発症に関わることが示唆されているが、そのメカニズムは明らかになっていないという。
非消化器疾患の病因・病態解明に向けた第一歩に
そこで、研究グループは、ピロリ菌由来CagAが、何らかの形で胃から他の組織や臓器へと運ばれることによって、胃以外の部位でさまざまな疾患を発症するのではないかと考え、細胞外小胞エクソソームに注目。CagA陽性ピロリ菌によって細胞内に注入されたCagAがエクソソームとして細胞外へ分泌され、血液を通して離れた組織へ運ばれるという仮説を立てた。
CagA陽性ピロリ菌に感染した胃がん患者の血清からエクソソームを回収し、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)を用いてエクソソームに含まれるタンパク質を網羅的に解析。その結果、エクソソームに含まれる代表的なタンパク質とともに、ヒト胃がん由来ピロリ菌株が持つCagAと同一の配列を同定した。これにより、CagAが胃のみに存在するのではなく、エクソソームとして血液中へと運ばれていることが明らかになった。さらに、このエクソソームは他の細胞内に入って生物活性を発揮することも分かったという。
この研究成果が、これまでCagA陽性ピロリ菌の感染で発症リスクが高まるとされていた非消化器疾患の病因・病態解明に向けた第一歩となることが期待されるとしている。
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・京都大学 研究成果