ゲノム編集技術応用で、iPS細胞に変わる瞬間可視化
京都大学は1月6日、再生医科学研究所の多田高准教授の研究グループが、ヒト体細胞からiPS細胞へ再プログラム化される中間段階にある幹細胞株「ヒトiRS(intermediately Reprogrammed Stem)細胞」を新たに樹立、ゲノム編集技術を応用しヒトiRS細胞の内在性OCT4遺伝子の下流にGFPレポーター遺伝子を挿入することで、ヒトiRS細胞がiPS細胞に変化する瞬間の生きた細胞の可視化に成功したと発表した。研究成果は、英科学誌「Development」誌の電子版に1月5日付けで公開されている。
画像はリリースより
ヒト体細胞のiPS細胞への再プログラム化は1万分の1以下の頻度でおこる再現性の低い現象であるため、分子機構の解明は難しく、課題となっている。また、iPS細胞は単一細胞からのクローニングが困難であり、ゲノム編集を含む遺伝子改変技術応用による疾患モデル細胞の作製や病因解明の検証の障害になっていた。
ゲノム編集による遺伝性疾患の病因解明や創薬開発に期待
研究グループは、ヒト体細胞とiPS細胞の再プログラム化の中間段階にある幹細胞株の樹立に成功し、この幹細胞株をiRS細胞と名付けた。ヒトiRS細胞は、培養条件を変えることで、iPS細胞への再プログラム化を再開する特性を持つとしている。
ヒトiRS細胞は、単一細胞からのクローニングが可能。ゲノム編集により、内在性OCT4遺伝子の下流にGFPレポーター遺伝子を挿入することで、ヒトiRS細胞(OCT4発現オフ)がiPS細胞(OCT4発現オン)に変化する様子を生きた細胞で可視化することに成功。また、OCT4の活性化はiPS細胞化に必要であるが十分ではないことも明らかにした。
今回の研究成果により、ゲノム編集を含む遺伝子改変されたiPS細胞の作製が簡易になり、遺伝性疾患の病因解明や創薬開発への貢献が期待される。また、ヒト再プログラム化機構の解析を再現性良く行うことが可能になり、結果としてiPS細胞の品質の安定化にも貢献できるとしている。
今後、研究グループは、ヒトiRS細胞がiPS細胞に再プログラム化される過程での遺伝子発現やエピジェネティクスの変化を解明するとともに、ヒトiRS細胞のゲノム編集により、新たな遺伝子改変iPS細胞を作製する予定。
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・京都大学 研究成果