位置情報が不可欠な「オブジェクトファイル理論」の妥当性も評価
京都大学は1月4日、短期記憶内で物体の視覚特徴が統合されている証拠を初めて示したと発表した。この研究成果は、同大大学院人間・環境学研究科の齋木潤教授によるもので、米科学雑誌「Psychological Science」オンライン版に2015年12月28日付けで公開されている。
画像はリリースより
ヒトは外界の事物を認識する際、色や形をバラバラの特徴ではなく、ひとつの物体として認識していると感じている。しかし、視覚情報処理の初期段階では、物体を構成する各特徴は独立に処理されていることが知られており、物体特徴が脳の中で統合される仕組みは認知科学における未解明の問題の1つだ。知覚においては、位置を共有する特徴が統合されると考えられているが、統合された特徴が記憶の中で保持される仕組みは不明なままだった。
このような特徴が統合された物体記憶は外界の認知に有効と考えられるが、従来の視覚性ワーキングメモリ研究では、むしろ特徴が独立に保持されるという知見が優勢であった。そこで、記憶内の特徴統合の明確な証拠を提出することを同研究の第一の目的にしたという。また、特徴統合の記憶における位置の役割も検討。結合問題に関する有力な理論であるオブジェクトファイル理論では位置情報が不可欠と主張されており、この理論の妥当性も評価したという。
特徴統合された物体情報を位置に依存しない形で保持
今回の研究は、認知心理学で知られている「冗長性利得」という現象を記憶課題に応用した。まず、色と形の組み合わせからなる物体をディスプレイに2個呈示し、それらを記憶。その後、テスト刺激が1個、記憶画面の物体位置のいずれかに呈示され、テスト刺激が記憶刺激に含まれる色、あるいは、形をどれか1つでも含んでいたか否かを、刺激位置とは無関係にできるだけ速く、正確に判断する課題を行った。この時、テスト刺激が記憶刺激の色、形両方を含んでいる場合は、色、形の一方だけを含む場合よりも反応時間が速くなる。これが冗長性利得効果だが、この時の反応時間分布を解析することで色と形が独立、あるいは、組み合わせて用いられているかを判定できるという。
解析の結果、記憶の符号化時には位置を共有する特徴のみが統合されること、統合された色と形は、記憶保持中に位置に関係なく利用できるようになることが示された。つまり、視覚情報を記憶に符号化する際は、位置の共有によって特徴が統合されるが、記憶に保持されている間に位置に依存しない表現が生成されるということを示しているという。 また、脳波データの解析から、位置に依存しない特徴の統合と、オブジェクトファイル理論が想定する特徴と位置の結合は、脳内の異なる領域で処理されている可能性が示された。
これらの研究成果は、複雑な視覚情報の認知が必要な運転行動や機械操作の安全性向上、動きながら外界を認識する必要があるロボットビジョンシステムの高度化、ウェブページやスマホ画面を用いた複雑な視覚情報の効率的な伝達に役立つ手がかりを提供できると、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学 研究成果