HDL機能、角膜輪の存在やアキレス腱の厚さと関連あり
国立循環器病研究センター(国循)は12月23日、生まれつきLDL-C値が高い遺伝病「家族性高コレステロール血症(FH)」患者において、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の発症リスクを予測したり、治療の指針としたりする際、HDL-C値よりも「HDL」自体の機能が重要であることを明らかにした研究結果を発表した。HDLの機能はFH患者に特徴的な角膜輪の存在、アキレス腱の厚さと関連があることも分かったとしている。この研究は、国循病態代謝部の小倉正恒上級研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、専門誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」オンライン版に掲載された。
画像はリリースより
FHとは、生まれつきLDL-C(悪玉コレステロール)値が高く、アキレス腱肥厚をはじめとする黄色腫(腱や皮膚にコレステロールがたまる状態)、角膜輪(眼球の黒目の部分にコレステロールがリング状にたまる状態)、若くして心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を発症しやすくなるなどの特徴を持つ遺伝病。その頻度は約200~500人中1人と高く、国内では30万人以上の患者がいると推定されている。FH患者にはLDL-C濃度を下げる治療(主にスタチン投与)が実施されるが、心筋梗塞などの予防はしばしば困難であり、LDL-Cだけではない、新しい診断基準や治療ターゲットを見つけることが重要課題となっている。このような「残されたリスク」のひとつとしてHDL(高比重リポタンパク)が注目されている。
研究グループによると、HDLに備わっている好ましい機能のうち最も大切な機能は、動脈硬化が起きている場所に存在するマクロファージ(生体内の異物を捕食する白血球の一種)などの細胞からコレステロールを引き抜く能力(コレステロール引き抜き能)。そこで、国循に通院し、すでにスタチン投与を受けているFH患者を対象に、コレステロール引き抜き能を測定した。
研究グループは、通院中のFH患者227例について、コレステロール引き抜き能と心筋梗塞などの動脈硬化性疾患の有無(症状のある動脈硬化の存在)、頚動脈エコーで観察した内膜中膜複合体の厚さ(無症状かもしれないが、動脈硬化がどれだけ進んでいるかを予測できる指標)、角膜輪の有無、アキレス腱の厚さとの関連を検討した。コレステロール引き抜き能の測定は、放射性同位体で目印をつけたコレステロールをマクロファージに食べさせた後、患者の血清から取り出したHDLを作用させるという方法で行った。患者のHDLによって培養液中に引き抜かれたコレステロールの放射活性の強さの割合をコレステロール引き抜き能とした。
コレステロール引き抜き能、新しい診断マーカーに
その結果、年齢と性別の影響を考慮しても、角膜輪のあるFH患者ではコレステロール引き抜き能が低く、角膜へのコレステロール沈着にはHDLの機能が関連していることがわかった。アキレス腱の厚さは年齢・性別・喫煙歴・肥満・高血圧症・糖尿病・LDLコレステロール値・トリグリセリド値といった危険因子の影響を考慮してもコレステロール引き抜き能と負の関連を認め、腱へのコレステロール沈着・黄色腫の形成にもHDLの機能が関連していることが明らかになった。また、頚動脈エコーで観察した内膜中膜複合体の厚さは上記の危険因子の影響を考慮してもコレステロール引き抜き能と負の関連が認められたとしている。
コレステロール引き抜き能はHDL-C値よりも強く、既に動脈硬化性疾患を発症しているFH患者の予測因子であることが判明。すなわち、HDLの機能であるコレステロール引き抜き能は、LDL-Cが高いFH患者でも新しい診断マーカーや治療ターゲットである可能性が示唆されたこととなる。
研究グループは、今後もコレステロール引き抜き能というHDLの機能を決めているものが何かを探る必要があると指摘。また、その他のHDLの機能(酸化ストレスを抑える作用や炎症から身を守る作用など)も新しい診断マーカーであるかどうかを検討したい考えだ。さらにFH患者だけではなく、一般住民やその他の疾患患者において、HDLの機能がどのような役割を果たしているのかということを日本人で明らかにしていく必要があり、現在も研究を進めているとしている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース