YAP1、TGFβの標的薬剤が肝内胆管がんに奏功する可能性
九州大学は12月22日、同大学生体防御医学研究所の西尾美希助教らの研究グループが、同大学病院別府病院や産業技術総合研究所と共同で、肝内胆管がんや混合型肝がんの原因としてMOB1シグナル経路が重要であることを見出したと発表した。研究成果は、米国科学アカデミー紀要オンライン版に米国東部時間の12月21日付けで掲載された。
画像はリリースより
研究グループは、2012年にMOB1ががん抑制遺伝子として作用することを初めて証明するとともに、このシグナルが皮膚がん、特に外毛根鞘がんの原因となることを示した。MOB1とは、細胞接触などの細胞外環境を感知して細胞内で活性化され、下流のYAP1活性を抑制することによって細胞増殖を抑制する分子。
今回の研究では、MOB1をマウスの肝臓で欠損させることで、肝がんの中でも特に肝内胆管がんや混合型肝がんを発症すること、これらがんの発症にはこのシグナルの下流でYAP1やTGFβ2/3が増加することが重要であることを見出した。ヒトの原発性肝がんでも、特に肝内胆管がんや混合型肝がんの組織で、このシグナル経路に強い異常があることを明らかにした。このように、肝内胆管がんや混合型肝がんの原因となる重要なシグナル経路を特定するとともに、YAP1やTGFβを標的とする薬剤がこれらのがんに奏功する可能性が高いことを示した。
抗寄生虫薬イベルメクチン、肝内胆管がん治療に有効
さらに、YAP1を標的とする抗がん剤を天然物ライブラリーから探索したところ、イベルメクチンやミルベマイシンが見つかり、この薬が肝内胆管がんの治療に有効であることを、MOB1欠損マウスやヒト肝内胆管がん細胞移植マウスを用いて個体レベルで証明したという。
イベルメクチンは寄生虫治療薬として既に多くのヒトに投与され、安全性が確立しているが、抗がん作用を示す有効濃度がより高いことから、研究グループは、安全性を検討するともに、より有効濃度の低い類似薬剤の選択などを必要であるとしている。今後は、肝がんの中でも依然極めて予後が不良であった肝内胆管がんや混合型肝がんの予後を改善できることが期待される。
国内の2015年のがん統計予測によると、男性の部位別がん死亡数で肝がんは第4位。原発性肝がんにおける頻度は、肝細胞がん、肝内胆管がん、混合型肝がんの順だが、肝内胆管がんと混合型肝がんを合わせても原発性肝がん全体の約5%と低く比較的稀ながんといえる。
これまで肝細胞がんに対しては様々な治療法が開発され、ある程度予後が改善してきているものの、肝内胆管がんや混合型肝がんの予後は依然非常に悪いままであり、これらの新規治療法の開発が切望されている。
▼関連リンク
・九州大学 プレスリリース