自殺未遂者に対する精神科医療が重要もこれまで根拠なく
東京大学は12月21日、入院患者データベースを用いて、精神科医による診察は、過剰な薬の摂取(過量服薬)による再入院の減少と関連していることを示した研究成果を発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科ユースメンタルヘルス講座の金原明子特任助教らによるもの。研究成果は「British Journal of Psychiatry Open」に11月9日付けで掲載された。
画像はリリースより
自殺未遂者が自殺を完遂する可能性は、自殺未遂者以外の者と比較して、著しく高いといわれている。したがって、自殺者を減らす対策のひとつとして、自殺未遂者に対する精神科医療が重要と考えられている。2008年度診療報酬改定でも、自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ目的で、「救命救急入院料 精神疾患診断治療初回加算」が新設された。しかし、自殺未遂で受診した患者に対する精神科医療の有効性について、これまで確固たる根拠は示されていなかった。
入院を要する自殺未遂の手段の多くは過量服薬と考えられている。そこで、研究グループは、救命救急センターに入院した過量服薬患者に対する精神科医の診察が、再入院の減少と関連しているかを、大規模入院患者データベースであるDPCデータベースを用いて調査。対象者は、過量服薬で救命救急センターに入院した患者(2010年7月~2013年3月退院)で、介入は精神科医の診察(救命救急入院料精神疾患診断治療初回加算または入院精神療法)、再入院は過量服薬による同センターへの再入院と定義した。
精神保健医療政策や自殺予防政策への活用に期待
対象となった過量服薬の患者のうち、介入を受けた患者を介入群、それ以外の患者を対照群とし、介入群と対照群について属性の似たペアを作って、この属性がマッチされた介入群・対照群について再入院率を比較した。その結果、救命救急センターに入院した過量服薬の患者への精神科医の診察が、再入院率の低さと関連していることが示された。
精神科医による診察を受けやすい過量服薬の患者の特性としては、30代・女性・統合失調症・気分障害・パーソナリティ障害、重度の意識障害・挿管を受けた患者・2012年度退院患者。大学病院や病院症例数の多い病院ほど、過量服薬の患者に対して精神科医による診察を行っている傾向も見られたとしている。
研究グループは、今回の治験が精神保健医療政策や自殺予防政策に活用されることが期待されるとしている。
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