顆粒状タウオリゴマー結合してタウの線維に
日本医療研究開発機構は12月16日、国立長寿医療研究センターの添田義行脳科学推進プログラム研究員、高島明彦分子基盤研究部長らが、理化学研究所(理研)と、同志社大学の井原康夫教授グループとの共同研究で、アルツハイマー型認知症の原因となる「神経細胞脱落」を抑制する薬剤を発見したと発表した。この研究成果は、「Nature Communications」に12月16日付けで掲載された。
画像はリリースより
これまでのタウ蛋白質の研究から、神経原線維変化は嗅内野に最初に生じ、そこから大脳辺縁系、新皮質へと拡大すること、また、神経原線維変化が生じている領域では神経原線維変化の数の数倍の神経脱落が生じており、神経原線維変化数、神経脱落数、認知機能低下に相関があることが示されている。
タウ蛋白質の凝集過程を試験管内で再現すると、単量体のタウ蛋白質はその中にあるアミノ酸の一つであるシステイン残基を介して、オリゴマーという塊を形成する。ここにシステイン以外の領域での結合が加わると、顆粒状タウオリゴマーとなる。この顆粒状タウオリゴマーが結合して、タウの線維となることが研究グループによって分かった。このタウ線維が集まったものが神経原線維変化となる。顆粒状タウオリゴマーは神経原線維変化の前駆体であり、これはヒトの脳でも見出され、モデル動物の観察から神経細胞脱落に関与することも明らかとなっている。
タウ蛋白質標的とした凝集抑制メカニズムが初めて明らかに
そこで共同研究グループは、顆粒状タウオリゴマーの形成を阻害するには、タウ蛋白質に結合する化合物を見出す必要があると考え、理研の天然化合物ライブラリーから、認知症の原因物質とされるタウ蛋白質が体内で凝集することを抑制する化合物をスクリーニングした。この凝集阻害剤のうち、ドーパミンやアドレナリンのようなカテコール核を持つ薬剤が、タウ蛋白質の凝集を阻害することを見出したとしている。
具体的には、カテコール核を持つ化合物のうち、D/L‐イソプロテレノール(徐脈や気管支喘息に用いられる医薬品)を、モデルマウスに3か月間経口投与したところ、タウ凝集の阻害と、それに伴う神経細胞脱落の抑制が観察された。さらに、神経活動の低下や異常行動の改善も示したという。
この結果は、アルツハイマー型認知症に直接関与するタウ蛋白質を標的として、その凝集抑制のメカニズムを初めて明らかにした報告であり、認知症の治療薬開発に新たな道を切り開くものとして期待されるとしている。
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