学習や記憶の獲得に伴い新生・増大するスパインに注目
東京大学は12月14日、同大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター構造生理学部門の河西春郎教授らの研究グループが、学習や記憶を担う大脳のシナプスを蛍光で標識し、この標識を目印に青色光を照射すると学習や記憶により増大あるいは新しく作られたたシナプスをマウスにおいて消失することのできる光遺伝学プローブを開発したことを発表した。
画像はリリースより
大脳皮質の数百億もの神経細胞は、神経細胞同士の接点であるシナプスを介して情報をやり取りしている。特に、グルタミン酸作動性シナプスの多くは樹状突起スパインという小突起構造上に形成される。スパインは記憶・学習に応じて新生・増大し、それに伴いシナプスの伝達効率が変化するため、脳の記憶素子と考えられてきたが、記憶への関与を検証する方法はこれまで存在しなかった。
研究グループは、学習や記憶の獲得に伴いスパインが新生・増大することに注目。学習や記憶の獲得に伴って新生・増大するスパインのみを標識し、かつ青色光を照射すると標識されたスパインが消失、あるいは縮小するプローブ(記憶プローブ)を開発した。
認知症、心的外傷後ストレス障害のメカニズムに貢献の可能性
この記憶プローブを導入したマウスに運動学習を促して運動記憶を獲得させたところ、スパインが新生・増大。その後、大脳皮質へ青色レーザーを照射し、新生・増大したスパインのみを消去すると、マウスの運動成績が学習前に比べて大幅に低下し、先に獲得された運動記憶が消えたことが示唆された。これは、スパインの新生・増大が学習や記憶の獲得に必須であることを意味するとしている。
今回の研究により、生きたままの脳内において学習・記憶の基盤を担うスパインを直接観察、さらには光遺伝学的操作で多数のスパインを広範囲にわたり操作する新技術が世界に先駆けて確立したこととなる。研究グループでは、この新技術を用いることで、学習・記憶の細胞基盤やその正常機能の破綻である認知症や心的外傷後ストレス障害のメカニズムに大きく貢献する可能性を秘めているとしている。
同研究成果は、9月17日に国際科学誌「Nature」に掲載された。
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