医師の浜野淳氏(筑波大学病院医療連携患者相談センター総合診療グループ・緩和ケアセンター)は、高齢者に対して潜在的に不適切な処方を検出する「ストップクライテリア」を用いて、日本の在宅医療患者430人を対象にスクリーニングを行ったところ、在宅患者の約40%で不適切処方が認められたと報告。また、高齢者への使用が推奨される薬剤を示した「スタートクライテリア」でスクリーニングしたところ、在宅患者の約60%で本来投与すべき薬剤が投与されていなかったとした。
基本的には薬の数の多さが問題になるが、「数が少なくても、本来投与すべき薬剤が投与されていないために不適切処方になる場合もある。一方、数が多かったとしても適切な場合もある。数だけでなく、処方の内容や質が問題になる」と強調。ポリファーマシーを含めた不適切処方の是正に取り組むよう訴えた。
また、金井貴夫氏(筑波大学病院水戸地域医療教育センター水戸協同病院総合診療科)は、日本の65歳以上の入院患者700人のうち、その63%が5剤以上を服用していたという調査結果を紹介。「4.9%の患者が薬の有害事象を有しており、ポリファーマシーが有害事象の圧倒的なリスクファクターになっていた」と話した。
複数の論文の解析から、ポリファーマシーによって副作用、費用、救急外来受診率、入院期間、合併症率、転倒、骨折、死亡率が高まると指摘。「今の医学教育は足し算。薬をいかに使おうとするかという発想しかない。薬を足し算することは得意だが、引き算は全く教えられていない」と述べ、その改善に向けて「第一に医学教育に問題がある。薬剤師の不満は、疑義照会でフィードバックしてもそれに怒る医師がいること。卒前、卒後の医学教育でいかに教えていくかに尽きる」と語った。
原田和博氏(笠岡第一病院内科)は「ポリファーマシーの根本には縦割り医療がある、効果を優先して安全性を顧みることが不足している」とし、「そこに誰がメスを入れるのか。横の領域を担当する臨床薬理学の医師、総合診療医、薬剤師だ」と、その役割に期待を示した。
座長を務めた医師の徳田安春氏(総合診療医学教育研究所)は、薬剤師に向けて「病院薬剤師は研修医の回診に同行して処方をチェックしてほしい。薬局薬剤師は、電話での医師とのコミュニケーションはリスクが高いため、医師とのミーティングを週1回開催するなど、チームで取り組んでほしい。参考となる論文を医師に提供するなど働きかけを強めてほしい」と呼びかけた。