養育レジリエンス、「養育困難あっても良好に適応する過程」と定義
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は12月9日、NCNP精神保健研究所知的障害研究部の稲垣真澄部長、鈴木浩太研究員らの研究グループが、養育者が発達障害児の育児に適応する三要素を明らかにしたことを発表した。この研究成果は、米国科学雑誌「PloS ONE」オンライン版に現地時間12月3日付けで掲載された。
画像はリリースより
子育てには様々な難しさがあるが、特に発達障害児を育てている養育者は精神的な健康度が低下するリスクがあるということが知られている。また、問題行動の多い子どもに対しては厳しすぎる対応を養育者が取ってしまう傾向があることも報告されている。そのため、同研究グループは、発達障害児への直接的な支援に加え、養育者の精神的な健康や養育態度について配慮された支援も重要な観点であると考えた。
一方、発達障害児に対する育児の中で、母親としての役割を果たすことに前向きになるなど、肯定的な感情が生まれることがいくつかの研究で報告されており、発達障害児を養育する人の多くは育児に上手に適応していく様子が観察されている。しかし、「どのような要素が育児への適応に関係しているのか」は詳しくわかっていなかった。
そこで同研究グループでは、発達障害臨床のエキスパートへの面接、養育者への面談を経て、「養育困難があるにもかかわらず良好に適応する過程」と「養育レジリエンス」を定義した。その後、育児への適応要素を理解するための質問票を作成した。
重要要素は「子どもの知識の豊富さ」「十分な支援」「育児に肯定的」
同研究グループが発達障害児を持つ養育者424人に大規模調査を行った結果、子どもに関する知識を豊富に持っていること、社会的に十分な支援を受けていること、育児を行うことを肯定的に捉えていること、の3点が育児に適応するために重要な要素であることを分かったとしている。
これまでの研究では、発達障害児をもつ養育者の精神的な健康上のリスクや養育態度が報告されてきたが、大規模調査として、養育者が育児に適応する要素を検討したことは国内外で初めてのものとなる。
同研究グループでは、今後は、医療従事者、教育関係者、心理士、福祉関係者などの支援者が、同研究で明らかとなった要素を考慮して養育者支援の計画を立案、施行していくことで、発達障害の総合的支援の進展や質の向上につながっていくものと考えられるとしている。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース