血管新生阻害薬の固形がんに対する治療効果不十分が問題に
徳島大学は12月5日、同大学大学院医歯薬学研究部 呼吸器膠原病内科学分野の西岡安彦教授、後東久嗣講師、三橋惇志大学院生らの研究グループが、肺がんや大腸がんなどの治療薬として使用されている血管新生阻害薬に対する薬剤耐性に、線維細胞 (fibrocyte)という新たな細胞が深く関与していることを見出したと発表した。この研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に12月4日付けで掲載された。
がん細胞に栄養を供給する血管の形成を阻害し、がん細胞を兵糧攻めにする血管新生阻害薬が開発され、肺がんや大腸がんをはじめとする固形がんに対する治療薬として使用されているが、その理想的な抗腫瘍メカニズム理論からの期待に反して実際の臨床現場での治療効果は十分ではなく、継続使用による薬剤耐性の出現も問題となっていた。そこで、血管新生阻害薬に対する薬剤耐性メカニズムに関する研究が行われてきたが、その詳細はよくわかっていなかった。
血管新生阻害薬の効果をさらに増強し得る可能性示唆
同研究グループは、肺がんおよび悪性胸膜中皮腫の複数のマウスモデルを用いた解析から、血管新生阻害薬(主にベバシズマブという抗体医薬)に耐性となった腫瘍における遺伝子発現解析を行い、耐性腫瘍に線維芽細胞増殖因子(FGF)-2 が高発現していることを見出した。そこで、耐性腫瘍においてFGF-2 を高発現している細胞の解析を進め、最終的に血管新生阻害薬耐性機序に深く関与する新たな生体由来の細胞として線維細胞を同定。実際に、血管新生阻害薬に耐性の腫瘍内では線維細胞の数が明らかに増えていることを確認したとしている。
さらに、FGF-2分子を阻害する薬剤あるいは耐性腫瘍への線維細胞の集積を阻害する薬剤の併用によって、血管新生阻害薬の効果が増強することも判明。また、血管新生阻害薬治療後のヒト肺がん組織を収集し免疫染色法による詳細な解析を行ったところ、マウスモデルと同様に線維細胞が著名に増加していることを確認し、線維細胞数がこれらの肺がん組織の血管新生とも相関することを明らかにしたという。
これらの結果は、ヒト肺がんにおいて線維細胞のがん組織への集積の制御、あるいは線維細胞のがん組織内での機能の制御により、現在行われている血管新生阻害薬の効果をさらに増強し得る可能性を示しており、今後の臨床現場への応用が期待されている。
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・徳島大学 プレスリリース