接着と滑走を行うための“接着器官”構造、ナノメートルレベルまで解析は世界初
大阪市立大学は12月4日、同大学理学研究科の宮田真人教授らの研究チームが、ヒトに肺炎を発症させる細菌、マイコプラズマ・ニューモニエがヒトに感染するために接着と滑走を行うための装置“接着器官”の構造を、世界で初めてナノメートルレベルまで明らかにしたと発表した。この研究結果は米国の微生物学専門誌である「PLOS Pathogens」に12月4日付けで掲載された。
画像はリリースより
日本では毎年、数万~数十万人が肺炎を発症しており、ヒト市中肺炎の10~30%を占める“マイコプラズマ肺炎”は、マイコプラズマ・ニューモニエという小さな細菌によって起こる。この感染症はマクロライド系抗生剤での治療が行われるが、耐性菌の比率が増えていることが懸念されている。
マイコプラズマは、菌体の片側に小さな突起“接着器官”を形成し、この突起で宿主組織の表面にはりつき、はりついたままに動く“滑走運動”を行う。接着器官は、多種類のタンパク質により形成される複雑な装置で、ゲノム情報を見るかぎり既知の生物に類似のものは一切ない。そのため、構造も接着と運動のメカニズムもあまり明らかになっていなかった。これまでに10種類の構成タンパク質が報告されているが、それらが装置のどの部分に存在するのか、あるいはこの10種類以外にも構成タンパク質があるかなど、多くの部分が謎だったという。
耐性菌が増加するマイコプラズマ感染症対策の重要な情報に
同研究では、まず接着器官を単離・精製して、その形状と大きさをナノメートルレベルで明らかにした。次に、そこに含まれるタンパク質を網羅的に質量分析で同定し、3つの構成タンパク質を新たに発見。さらに、それまでに見つかっていたものを含む13種類のタンパク質それぞれに蛍光タンパク質を融合したものを菌体内で発現し、蛍光顕微鏡を用いて詳細に解析することで13種類のタンパク質それぞれが接着器官のどの部分を構成しているかを決定した。そして、タンパク質の局在から、滑走運動メカニズムの解明に踏み込んだとしている。
今後は、今回用いたものとは別の電子顕微鏡観察法とタンパク質の結晶化を用いて、接着器官の構造を高解像度に解析する研究を進めていく予定。それと並行して、蛍光標識したタンパク質の動きや接着器官の構造変化を調べることで、どの部分が動いて滑走運動が起こっているかを調べるという。
今回の成果は、耐性菌の蔓延により、抗生剤がマイコプラズマ感染症への第一選択肢ではなくなるかもしれない現代において、次の対策を得るためのヒントになると期待されている。
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