現制度下では基本的に、バイアルなどから必要な用量を抜き取った後、残存した抗癌剤は廃棄せざるを得ない。医療費の支払いはバイアルなどの単位になるため、使われずに廃棄している抗癌剤に対しても医療費が発生している。これを効率化できる余地が残されている。
抗癌剤廃棄の実態を明らかにするため、日病薬学術委員会旧学術第4小委員会は、全国の癌診療連携拠点病院397施設を対象に調査を実施し、187施設から回答を得た(回収率47.6%)。イリノテカン、シスプラチンなど汎用され売上額も大きい15種類の抗癌剤について2014年10月分の廃棄量、廃棄率、廃棄金額を調べたところ、廃棄金額の合計は約7億8000万円に達した。1年分に換算すると約94億円もの抗癌剤を廃棄している実態が明らかになった。
廃棄率が最も高かったのはボルテゾミブで37.5%。エトポシドが23.8%と続いた。これらの廃棄率が高いのは1規格しか存在しないことが主な要因だ。廃棄金額のうち、ボルテゾミブ、エトポシドなど3剤の合計額が全体の約70%を占めていた。
同委員会は、抗癌剤の廃棄を減らす対策の一つとして、複数の患者に分割して使用するマルチドーズバイアルの導入を提示している。米国では既に一部の抗癌剤で製品化されている。
委員長を務めた渡辺享平氏(福井大学病院医学研究支援センター)は22日に横浜市で開かれた日病薬病院薬局協議会・学術フォーラムで「日本で導入するには、薬剤の安定性などバイアル製剤の条件を検討する必要がある。医療機関側でも、マルチドーズバイアルの無菌調製手技や保管方法、保管条件、保管期限など、調製環境の条件設定が求められる。さらに、診療報酬、薬価関連上の課題としては使用量に基づく請求や、廃棄分の負担をどうするかという課題がある」と語った。
また、もう一つの対策として渡辺氏は、既存の規格に小規格を追加することを提案した。例えばベバシズマブには100mg、400mgの規格が存在するが、50mg規格の追加によって廃棄率は6.9%から3.1%に減少し、25mg規格の追加によって廃棄率は1.5%に減少すると見込まれるという。
渡辺氏は、抗癌剤の廃棄によって「貴重な医療資源を損失している」と述べ、これらの対策を実施して廃棄量を減らせば、医療費を削減できる可能性があるとした。